決戦103
「な、なんだ…どういう意味だ、シャルンホスト…!」
「あなたに説明した所で理解できないでしょう、侯爵。――射撃準備」
兵たちはクロスボウのリロードを開始する。アイヒホルンに止めを刺すために。
「ひっ…、き、貴様、味方を殺すつもりか!?」
「あなただって同じ事をしたじゃないですか。あまつさえ、罪なき民衆の命まで奪おうとしている」
「わ、私は帝国上級貴族だ!庶民共とは命の価値が違う!」
「なるほどなるほど…命の価値が違う、ですか…」
「と…当然だ!尊き血筋の者は、卑しき血筋の者とは命の価値が違う!それがこの世の摂理だ!」
「だったら矢に命令してみたらいかがですか?『自分は貴族だから避けろ』ってねえ。――構え」
リロードを終えた兵たちは、一斉にアイヒホルンに狙いを定めた。
「やめろ!シャルンホスト!やめさせろ!」
シャルンホストはゆっくりと首を横に振る。
「私は、ずっとあなたの事が嫌いでした。しかし…一度ゆっくりと話をしたいとも思っていました。それが叶わず残念です」
そう言ってシャルンホストは命令を下した。「放て」と。
兵達は迷いなく引き金を引く。アイヒホルンに向けて矢が飛来する。
「がはっ…」
矢を受けたアイヒホルンは体を硬直させた。
「わ、私が…侯爵たる私が、こんな…所、で…」
そう言い残し、アイヒホルンの体から力が抜ける。そして、ピクリとも動かなくなった。
「さようなら、ハインツ・フォン・アイヒホルン侯爵」
別れの言葉を告げた後、シャルンホストはカイと椿へと視線を移す。
「ありがとうございます、ツバキ・ニイミ殿。カイ・ネヴィル殿。あなた方のおかげで私の目的を達成する事ができました」
まるで今の惨劇などなかったかのようににっこりと笑うシャルンホスト。
「あなたの…」
「ん?」
「あなたの目的は、何なんですか?」
椿が問いかけた。
言うまでもなく、アイヒホルンとシャルンホストは同じ国の所属…仲間だ。その仲間をシャルンホストは射殺した。アイヒホルンの言ったような派閥争いかとも思われたが、シャルンホストの言葉が事実だとするのならばそうではないようだ。
「んー…そうですねえ」
シャルンホストは顎に手をあて考え込む。
「今はまだ秘密という事で。しかし、あなたならばいずれ分かるはず。私ヒューゴ大将軍もあなたには期待していますよ」
「僕に、期待…?」
「はい。この先、あなたはもうひとりの大将軍と戦う事になるでしょう。彼はもうすでに北統王国に向けて進軍していますから…。ぜひ、頑張ってください」
「…そんな情報を僕に教えていいんですか?」
「もちろん。あなたに期待していると言ったじゃあないですか。――では、失礼」
そう言ってシャルンホストは踵を返した。
「待て!」
その背を追おうとするカイ。しかし椿がそれを止めた。
「カイさん…追うのはやめましょう」
シャルンホストは間違いなく逃げるための手段を持っている。追った所で無駄だろう。それどころか、時間をかせがれてスルズ穀物庫の焼き討ちが実行される危険性すらある。
「一刻も早くオスカーさんたちと合流しましょう」
「…そう…だな」
帝国、北統連合軍敵総大将、ハインツ・フォン・アイヒホルンは死亡した。この事実が全軍に伝われば戦いは終わる。




