決戦98
「伯爵家に婿入り、か…」
そう呟きながらカイはアイヒホルンに歩み寄る。
「ああ!その上、伯爵家の令嬢はなかなかの器量良しだ。その点でも文句はないだろう!?」
「残念だがオレは美女には興味ない。しかし、それは置いておくとしよう。――なあ、ツバキ」
カイはアイヒホルンの背後に声をかけた。アイヒホルンはビクリと肩を震わせて背後を振り向く。そこには馬具、干し草、木材などが積み上げられているばかり…そう思えたが、その陰からひとりの少年が姿を現す。
「こ、子供?なんだ、お前は…」
驚いた様子のアイヒホルンを無視し、カイは言葉続ける。
「ツバキ…オレはどうすればいいと思う?こいつの提案を受け入れるべきか、それとも断るべきか」
少年は迷いなく応える。
「僕が何かを言う必要は…ないと思います。カイさんが、自分自身の信じる選択をしてくれれば」
その言葉にふっと笑うと、カイは僅かに頷く。そしてアイヒホルンに視線を戻した。
「――という事だ。オレは、オレの惚れた男の意見に従おう」
そう告げ、手を差し伸ばし…アイヒホルンの差し出した手をパシンと払う。
「なっ…!き、貴様!どういうつもり…」
驚愕に目を見開くアイヒホルン。その時、カイはすでに拳を握りしめていた。そして思い切り振りかぶる。
「ひっ…」
アイヒホルンの口から短い悲鳴が上がる。次の瞬間、彼の顔面に渾身の力で鉄拳が叩きつけた。




