決戦90
オスカーとの合流から十数分後。エレオノールは敵兵の鎮圧に苦慮していた。単純な戦闘力という点では、こちらが圧倒的に上回っている。何しろ敵の上級指揮官は全て戦闘不能。エレオノールと互角に戦える者など、最早敵軍にはいないのだ。
「戰乙女よ!覚悟しろ!」
そんな事を叫びながら向かって来る中級、下級指揮官もいるが、エレオノールが剣を一振りすれば次の瞬間には地に倒れ伏している。状況は聖王国軍が圧倒的優位であるのは間違いない。
しかし――敵軍の粘りが異様だった。上級指揮官不在という状況にも関わらず、果敢に攻勢をかけてくる。敵軍がそうまでする原因は分かっていた。
(敵総大将、アイヒホルンによる指令――)
どうやらアイヒホルンは離れた場所からこの戦場を把握し、伝令兵を使い兵達に指示を下しているようだ。『勝利は目前、全力で戦え』『秘策がある、恐れず攻勢を続けよ』などといった内容だ。
そういった指示、激励のために敵軍は未だ士気を保つ事が出来ている。
――表面上は負けているように見えるが、司令官閣下には秘策がある。
そう思えばこそ兵達は奮い立っているのだ。
(だが――)
エレオノールは思う。
(果たして、本当にそんな秘策があるだろうか…?)
聖王国軍圧倒的優位という現状を覆す事の出来る秘策があるとは、にわかには信じがたかった。
(では、兵達の士気を上げるために秘策があると嘘をついている…?いや、そんな事をしても無意味なはず)
兵の士気を上げたとしても、それは敗北を一時的に先延ばしにしたに過ぎない。最終的にアイヒホルン軍が聖王国軍に負ける運命を変える事は出来ないはずだ。
エレオノールの読みは当たっていた。アイヒホルン軍はもはや、この戦場で逆転勝利を手にする事はできない。それは総大将、ハインツ・フォン・アイヒホルン自身も知っていた。
しかし――それでも。逆転勝利はなくとも。アイヒホルンには最後の一手が残されていた。聖王国軍に最大の打撃を与える事の出来る一手が。




