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決戦59

 グロスモント軍との決戦が行われるその前日、夜。アイヒホルンは自らの配下にある北統王国軍を集結させていた。


「諸君らに伝えておかなければならない事がある」


 壇上に立ったアイヒホルンは、そんな言葉から演説を開始した。


「諸君らの中には、この戦いが終わった後の処遇について不安に思っている者もいるだろう。その件についてだ」


 北統王国兵の何名かが不安げに顔を上げた。


「北統王国と帝国は現在、同盟関係にある。だが、実質的には帝国が北統王国を属国にしていると見る向きもある」


 帝国は、北統王国に対して数多くの内政干渉を行っている。そもそも、アイヒホルンが(名目上は北統王国に降伏したという形だが)この軍の指揮官となっているのもそのひとつだ。属国扱いという認識を多くの者が持つのも当然といえた。


「もっとも、聖王国という共通の敵と対峙している以上は強大な力を持つ帝国が主導権を握るのは仕方のない事だ。それは承知していただきたい。しかし、問題は聖王国を打倒した後だ。聖王国を打倒し、敵がいなくなれば帝国は次に何を欲する?そう、北統王国の併合だ。何しろ、それで世界は統合されるのだから。二千年前、かの伝説の皇帝カイザー聖騎士団総長グランドマスターが成し遂げて以来の世界統一…歴史に残る偉業だ」


 アイヒホルンは、まるでその瞬間を目にしたかのようにうっとりと目を輝かせた後…再び兵達へ視線を戻す。


「だが、そうなってしまえば諸君ら北統王国民はどうなってしまう?――君、どう思うか発言してみたまえ」


 そう言って、アイヒホルンは手近にいた兵士に指を指す。


「ど、どうなるって…それは…」


 兵士は、アイヒホルンの顔色を伺うように視線をチラチラと移動させながら答える。


「て、帝国人として生きていく事になる…んじゃあ…ない、でしょうか…」


「そう、その通り。だが諸君らは元からの帝国人ではない。統一された帝国が出来た場合、元北統王国人は二級市民扱いされるだろう。まあ、奴隷にされる聖王国人よりはマシと言えるが…それでも、大して恵まれた生活は期待できない」


 その言葉に、兵たちはあからさまな動揺を見せる。予期してはいたが、直視しようとしていなかった現実。それをアイヒホルンに突き付けられた形だ。


「だが――その未来を変える手段を私は諸君に提示しよう。私の指示する作戦、それに従った者には帝国準男爵の地位を授ける。最下級だが、帝国貴族の仲間入りという訳だ。この肩書きがあれば、帝国が統一した後も諸君らは地位を保証される。それどころか、諸君らを見下していた北統貴族を顎で使える立場になれるだろう。何しろ、北統王国貴族も新帝国の中では没落するはずだ」


 ゴクリ、と兵の何名かが唾を飲み込んだ。


「もし戦いの中で命を落とすような事になった場合、息子や弟などの親族がいればその人物に準男爵の地位を。妻、もしくは両親には生涯に渡って年金を支給する。…悪い話ではないだろう?」


 アイヒホルンは兵達を見回した。先ほどまで不安に満ちていた兵達の瞳は、期待に輝き始めている。自らの演説が効果を上げている事を確信し――アイヒホルンは、満足げな微笑を浮かべる。


「もっとも、これだけの報酬を約束する以上は危険な任務に就いてもらわなければならない。私は帝国の上級貴族だが、ひとりや二人ならともかく諸君ら全員を準男爵の地位にする以上は国王陛下を説得しなければならないからね。並大抵の成果では国王陛下も納得してくださらないだろう。しかし、私に従ってくれるならば今述べた事は必ず実行すると約束しよう」


 結局、北統王国兵はアイヒホルンの作戦に従う事を承知した。だが、アイヒホルンは自らの提示した約束を守る気などは欠片ほども持ってはいなかった。

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