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小離宮にて

 小離宮プチ・シャトー。ウォルツシュタイン城の南にある国王のための別邸。『小』と名がつくものの、その建物は中級貴族の屋敷程の大きさがある。その中にある一室に椿達四人は案内された。


「エレオノール・フォン・アンスバッハ以下四名、入室いたします」


 中央には大理石で作られた円卓ラウンドテーブル、天井にはシャンデリア。壁には、それ一枚で良馬100頭にも値するであろう名画。贅の限りを尽くしたその部屋には五人の男がいた。そのうちひとりは侍従長、ふたりは近衛兵、奥の豪奢な椅子に腰掛けるのは国王アルフレッド三世。そして…、


「このたびの戦い、ご苦労だったな」


 軽薄な声でエレオノール一行を出迎えたのは…王太子、ヨハンネスだった。


「お前らを呼んだのはさ、父上が俺の口から直接礼を述べろって言うからさあ…。確かにお前たちのおかげで助かった面もあるしな。ま、お前らがいなくても何とかなっただろうけど」


 とても感謝しているとは思えない態度で、王太子はふふんと鼻を鳴らした。


 椿は、自身の内に言い知れぬ不快な感覚が広がっていくのを感じた。


「しっかし、今回はお前達にとっても悪い戦いじゃなかったはずだ。だって、王太子たる俺の命を救ったんだぜ?国家の英雄だ。特級騎士勲章なんてさ、将軍でも打ち取らない限り手に入るもんじゃない。ましてや、死んだあいつ…なんつったっけ」


「ウィル・ユンカースです。殿下」


 侍従長が答えた。


「ああそうそう、ユンカースだったっけな。あいつなんて、聖騎士勲章だぜ?はは、ラッキーだよな。庶民出身の二千人隊隊長ごときが、聖王国最高の勲章を得られるなんてさ。命と引き換えでもお釣りが来るってもんだ」


 ――あ?


 と、怒気を含んだ声が漏れた。その声は、ヘルムート・リヒターの口から発せられたものだった。しかし、それと同時に…椿は、一歩前へと踏み出していた。


「…ひとつ、いいですか」


「あん?なんだ、お前。何か言いたい事があるのか?」


「ユンカースさんは…勲章とか、名誉のために戦ったんじゃないと思います。…もちろん、あなたのために戦った訳でも」


「はあ?じゃあ何だ?」


 王太子は不快そうに眉を歪めた。


「多分…仲間のために。仲間を一人でも多く逃すために、戦ったんだと思います」


「なんだそりゃ?」


 王太子は苛立たしげに椿に歩み寄る。


「わっけわかんねえ事言ってんじゃねえって。俺が褒めてやってんだから素直に感謝しろよ。それともあれか?俺がお前を殺そうとした事を根に持って、俺にイチャモンつけてんのか?」


「…違います」


「そういやお前、ヌガザ城砦では乗り込んできた敵の隊長に斬りつけたんだってな。それで自信をつけたか?はっ…文句あんなら殴って来いよ。王太子であるこの俺を殴れるならな」


 王太子が椿の右腕を掴み、笑いと苛立ちの入り混じった表情で睨みつける。


「僕は…暴力は、好きじゃありません」


 嘘偽りない言葉だった。ヌガザ城砦では、怪物の如きジークフラムを相手に一太刀見舞う事ができた。強大な相手であっても、自分には抗える力がある事を知った。しかし、だからこそ思う。そんな力を無闇に使うべきではないと。


「でも、嫌いな相手に『殴っていい』と言われて…我慢する程、お人好しでもありません」


 椿は、手を振り払った。そして驚愕の表情を浮かべる王太子の右頬に…拳を叩き込む。


 王太子は、ぺたりと尻餅をついた。驚愕、放心。そしてすぐに沸き上がってくる屈辱と…怒り。


「お、お前えええ!よくも王族たる俺に手をあげたな!近衛兵!何をしている!取り押さえろォ!」


 王太子の絶叫。すぐさま近衛兵が動く。しかし、一足早くエレオノール、エマ、リヒターがツバキを庇うように前に進み出る。


「お、お前ら!そのガキを庇うつもりか!?だとしたらお前らも反逆罪で…!」


「やめよ」


 今まで静観を貫いていた国王が口を開いた。特に威厳のある声という印象はない。しかし、長年に渡って玉座に座した者だけが帯びる、言い知れぬ力がその奥底にあった。部屋にいる者全員が王に視線を向ける。


「…退出せよ」


「そ、そうだ!お前ら!さっさと退出しろ!そして追って沙汰を待て!牢獄にブチ込んでやる!」


「…退出するのはお前だ、ヨハンネス」


「え?」


 王太子は、呆然と国王を見上げた。


「ち、父上!何を!なんで俺が…!」


「…何故、わしがこの者達に礼を述べるよう言ったのか…お前は、何も分かっておらんようだな」


「ど、どういう意味です?俺は、ただ…」


「もう良い。出ていけ」


「父上、悪いのはこいつらで…!」


「出ていけと言ったのが聞こえなかったのか。これ以上王たる余のめいに逆らうのであれば…廃嫡とするが、良いのだな」


「は、廃嫡…」


 それは、王太子としての地位を…次期国王になる権利を失うという事。王太子の顔は、一瞬にして真っ青になる。


「ち、ち、父上…も、も、も、申し訳ありません…」


わしではなく、この者達に詫びるべきではないのか」


 王太子は、震えながら立ち上がりツバキ達に向き直った。


「…わ、悪かった。ゆ、許してくれ…」


 それだけ告げると、逃げるように部屋から退出していった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かーなーり!スカッとしましたわ!!!クズのオウタイシ、ザマァ!!!…仮に復讐とか企んでも、あんなカスのパラメーターとバーーーカな性格じゃあ大したこと何も出来ないし、誰かに利用されて破滅がオ…
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