決戦48
(聖騎士だと…!?)
カイの名乗りを聞きつつ、ロルフは内心の困惑を深めた。
(なんで大公国に聖騎士が…いや、んなこたぁ今はどうでもいい!)
どんな事情があろうとも、それに考えを巡らせるのは目の前の敵を倒したその後だ。ロルフは裂帛の気合を込め槍を突き出した。しかし、そのことごとくはカイの剣によって阻まれる。
ロルフが槍を繰り出し、カイがそれを受け止める。次はカイが剣を振り下ろし、ロルフがそれを弾く。余人には入り込む余地のない剣と槍の攻防。しばらくその繰り返しが続いたが…徐々に、均衡が崩れ始めた。カイがロルフを押し始めたのだ。
椿の解析によれば、両者の武力はほぼ互角。しかし、今この場にはカイの有利になる状況が揃っていた。
まず第一に、ここまで接近されてしまえばロルフの得意とする投槍が使用できないという事。第二に、カイの闘志がかつてない程に燃え滾っているという事――。
カイ・ネヴィルは怒りに燃えていた。椿を傷つけた目の前の男に対して。普通の人間であれば、怒りに身を包まれれば攻撃は荒くなる。だが、カイは違う。彼女は、信仰の聖騎士。己の信じる者を傷つけようとする相手と対峙した時…その怒りは、斬撃をより鋭く研ぎ澄ます。
「クッ…クソがっ…!」
ロルフの額に汗が浮かぶ。すでに彼の体には、何度かカイの刃が触れている。着ている鎧のおかげで致命傷は免れているが、いずれは鎧ごと切り裂く一撃が彼の体を襲うだろう。
(負ける?俺が?あり得ねえ!あり得ねえ!)
なんとか勝機を見出そうと、攻撃を受け止めつつ周囲に視線を向ける。カイの登場により聖王国軍は士気を取り戻し、帝国軍と互角の戦いを繰り広げている。助太刀が入る見込みは低い。
しかし、それでも――それでも、どこかに勝機はあるはず。そしてその勝機は、突如訪れた。
カイの乗る馬が、前へ倒れ掛かるような動きを見せたのだ。おそらく、ここまでの強行軍の疲れが表面化したのだろう。カイは素早く態勢を立て直す。だが、そこに隙が生じた。
ロルフはすぐさまカイから距離を取り、槍を持つ右手を後ろへ引いた。
「死ィねやぁ!」
槍騎士長の手から、投槍が放たれた。




