決戦43
「…どういう意味でしょうか」
叡智の聖騎士が海賊に問い返した。
「いや、なんとなく聞いてみたくなっただけだ」
「なんとなく?」
「まあ、海の男のカンって奴だな」
海賊はそう言って自らの髭を撫でる。その様子を後方から眺めながら、
(海賊の癖に勘の鋭い奴だ…)
とカイは歯噛みした。
「おい、シナン。おめえ大公国出身だったな」
「へい、船長」
シナンと呼ばれた中年の男が進み出る。どうやらこの男は海賊になる前は大公国に暮らしていたらしい。
「おめえ、こいつが本当に大公国軍の人間かどうか質問して確かめてみろ」
「へい!」
そう答え、シナンは叡智の聖騎士に視線を向ける。
「あんた、生まれは大公国のどこだい?」
「商業都市グレミングの南部、フライス村です」
「そこの名産は?」
「名産といえる名産品はありませんね。山間の村なので。山で取れるキノコと酪農で作られるチーズくらいでしょうか」
「あんたの経歴を教えろ」
「18の時に東部方面部隊に入隊。マテシッツ伯爵の起こした反乱の鎮圧が初陣です。その後対聖王国戦線が激しくなってきたために西部方面部隊に配置換え。24歳で下級指揮官に抜擢されました。対聖王国戦線では城砦の守備に当たっていましたが聖騎士が戦線に投入されてからは敗戦続き。しかし、撤退戦で功績を上げたため昇格。多くの将が討たれた事もあり、最高指揮官代理を務めています」
(よくもこうペラペラと嘘を並べ立てる事ができるものだ…)
後方で話を聞きながら、カイは叡智の聖騎士の言葉に感心すると同時に呆れかえってきた。当然ながら、彼の述べた経歴は全て嘘である。
海賊、シナンはその後もいくつか質問した後、
「それじゃあ次は…」
と言いかけるも、叡智の聖騎士の言葉に遮られた。
「いい加減にしていただきたい」
そう言って、海賊を睨みつける。
「何度確認すれば気が済むのですか?私が大公国軍人であるという事はもう分かっていただけたはず。ひょっとして、私たちを見下してからかっているのですか?――残党軍だからと」
静かに、しかし怒気を込めた声で言った。
「いや、そんな訳じゃ…」
弁解しようとするシナンだが、叡智の聖騎士はさらに言葉を続ける。
「もし私たちを侮辱するつもりなら、刃をもって応じましょう。――総員、武器を取れ!」
振り返り、乗組員たちに号令を下す。それを聞きながらカイは、
(こいつ…馬鹿か!?なんでわざわざ事を荒立てるような命令を…!)
そう思いながら、腰の剣を抜いた。




