決戦38
話はしばし前に遡る。場所は、大公国領の北西。北統王国との国境である海峡付近。そこで、大公国軍残党軍と聖王国軍の戦いが繰り広げられていた。
海峡を渡航しようとした大公国残党軍に対し、聖王国軍が急襲を仕掛けたのだ。
聖王国軍側の指揮官は、聖騎士序列二位の叡智の聖騎士及び序列六位の信仰の聖騎士。
戦いは当初、互角だった。大公国軍側の兵力は2万5千。対して、聖王国軍側の兵力は5千。
何故聖王国軍側の兵力がここまで少ないのかといえば、逃げる大公国軍に追いつくために歩兵を切り離し騎兵のみで奇襲を仕掛けたからだ。
大公国軍側は残党軍――残党軍と言うと聞こえが悪いが、逆に言えば大公国が滅びた後も聖王国に降伏せず徹底抗戦を貫く気骨ある兵たちの集まりだ。その精鋭、しかも5倍の兵力を相手に互角の戦いを繰り広げた聖騎士二人の指揮はさすがと言うべきだろう。とはいえ、このままでは聖王国側の分が悪い。
そこにひとりの騎士が颯爽と現れた。彼は僅かな手勢を引き連れ敵陣に突撃を敢行すると、本陣を強襲。敵総大将を瞬く間に討ち取ったのだった。その騎士とは、聖騎士序列筆頭。人呼んで、正義の聖騎士。
そして敵総大将が討ち取られ、兵が動揺を見せた瞬間――、
「合図を」
叡智の聖騎士が兵に指示を下した。角笛が鳴らされる。それを合図として、戦場を見下ろす丘の上に一斉に旗が掲げられた。
戦場において、旗は部隊の識別に使われる。部隊ごとに決められた旗を掲げる事で、どの部隊がどこにいるのかをすぐさま把握する事ができるという訳だ。
その旗が、丘の上に無数に揚げられた。十万を越える規模の軍が使用する数だ。
大公国軍は、十万を越えるの聖王国兵に包囲されたものだと思い恐慌状態に陥った。もっとも、この旗はただのはったりである。後方の歩兵は未だ追いついておらず、旗だけを掲げて大多数の兵力がいるように見せかけただけだ。
簡単なトリック。大公国軍の中にも、それを見破った者は多数いた。だが――、
兵を落ち着かせようにも、総大将が不在であり全体を統率する者がいない。もし旗が掲げられたのがこれが5分ほど後であれば総大将を引き継いだ副将が兵の動揺を鎮めただろう。しかし、総大将が討たれた一瞬の空白を狙った絶妙のタイミング。
大公国軍兵士の士気は瞬く間に崩壊した。




