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決戦間近23

 グロスモント軍が進軍を開始して二時間ほどが経過した。現在、リヒター率いる歩兵部隊は小休止を取っている。歩兵部隊の身に着ける甲冑と槍は、決して軽いものではない。歩兵部隊は数時間歩くだけで疲労が蓄積してしまう。それを可能な限り抑えるため、余裕のある時に小まめな休息を入れるのが行軍の鉄則だ。


「部隊長、軍曹たちに命じて兵にドライフルーツを配ってくれ。甘いもんを食やあやる気が出る」


 リヒターが指示を下す。カロリー補給及び戦いの前の緊張緩和を目論んでのドライフルーツの支給。ささいな事だが、こういった小さな気配りが戦場での士気を高める…と、彼はかつての上官から学んでいた。


 アイヒホルンまでは、今までと同じ速度で進んだとしてあと二、三時間で激突するといった所か。未だ敵軍に大きな動きは見えない。


「未だ動きなしとは、いささか不気味ですな」


 と、リヒターの近くに来ていたボゥが訝しむような表情で言った。


「ボクたちにビビッてんじゃないの」


 とハティ。彼女もリヒターの近くの切り株に腰かけている。


「はは、そうだといいんだがな…そう簡単にはいかせてくんねえだろ」


「ええ…敵は、すでに動いています」


 そう言った椿の視線は敵軍…アイヒホルン軍の方へ向けられている。彼の言葉に、リヒターは感心したように応じた。


「さすが軍師殿。気付いてたか」


「はい。軽騎兵を大量に出撃させていますね」


 アイヒホルン軍は偵察用の軽騎兵を出撃させていた。もっとも、十数騎ずつに分かれ何度も出撃させているため常に注意を向けていないとどれ程の数の軽騎兵が出撃したのか把握できない。


「ここからではよく視認できませんが、五十騎前後の軽騎兵が百回近く出撃したように見えました。リヒターさんはどうですか?」


「ああ、俺の見た限りでもそのくらいだな。おそらく、俺たちの後方に回り込んでる軽騎兵もいるだろう。ったく、めんどくせえ敵だぜ」


 リヒターはため息を漏らした。隠密行動と奇襲作戦を得意とする彼にとって、索敵を重要視する敵というのは極めてやっかいな存在と言えた。

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