決戦間近21
「はっ」
ロルフは返答と共に一歩前へ踏み出した。
「閣下は様子見をするとおっしゃられていましたが…正直、俺はそんな必要はないんじゃないかと思うんです」
「その理由は?」
アイヒホルンはロルフの方を振り向きもせず問いかけた。
「はい。まずは、兵の数も指揮官の質も俺たちの方が上って事。これがまず第一です」
この言葉に対しアイヒホルンは反論を行わなかった。ここまではロルフの考えに同意するという事だろう。
「そして、敵の中で脅威となる人物も絞られてます。勇壮の聖騎士と戦早乙女。この二人です。この二人さえ討ち取れば勝負は決します。だったら、敵の出方なんて気にせずに聖騎士と戦早乙女を狙えばいい。俺たち槍騎士長に命じて下されば、必ずや二人の首を取ってみせます!…これが俺の考えです、閣下」
「なるほど」
アイヒホルンは頷く。
「自分たちならば聖騎士と戦早乙女を討ち取れると?」
「勿論です!」
ロルフは胸を張って答えた。
「頼もしい事だ」
そう言って、アイヒホルンは微笑する。
「確かに私も、諸君たちならば聖騎士や戦早乙女に打ち勝つ実力があると信じている」
「だったら…!」
「だが、敵の脅威はそれだけではない」
アイヒホルンは鋭い口調で言った。
「竜に暗殺者の少女。さらに歩兵部隊の指揮官にも癖のある動きをする者がいるようだ。巨大要塞での勝敗を決めたのは、この歩兵指揮官による要塞司令官の捕縛だったと聞いている」
「で、ですけど…大した事ないすよ!竜は対処法が分かってますし、暗殺者はこっちの懐に入れなければなんとでもなる!歩兵指揮官については、優秀って言っても…俺たち槍騎士長の敵じゃない」
ロルフはそう抗弁する。
「その通り。竜にしても暗殺者にしても、所詮はただの駒に過ぎない。それ単体で万の軍勢を壊滅させる事が出来る訳でもない。重要なのはそれを率いる指揮官だ」
「はい、その通りです!」
そう答えるロルフに被せるように、アイヒホルンは言葉を続ける。
「――と、そう思って戦いに挑み、今までの相手は破れてきたのだろう」




