決戦間近17
「俺は…正直、自分が優秀な指揮官だとは思ってねえ」
そんなリヒターの言葉に、兵たちは一瞬不思議そうな表情になった。自分が有能ではないなどと言う指揮官は初めて見たからだ。
「昔、とある部隊で副長を務めててな…その時、隊長を死なせちまった。いい隊長だった。その人が生きてりゃあ、俺なんかよりもっと上手く色んな事をやれたんだろうなって思うぜ。んで、そん時思った訳だ。『知り合いが死ぬのは面倒くせえ』ってな」
リヒターは歩兵部隊を見回す。
「知り合いが死ぬと、気分は落ち込むわ俺の役目は増えるわ…本当、面倒くせえ事だらけだ。だから、あんたらも死なねえでくれ。俺の負担が増えるからな。他の誰でもねえ。俺のために生き残って欲しい」
そう言ってリヒターは皮肉げに方眉を上げる。
「俺は、この戦いで勝利を目指す。ここで勝っておかねえと、いずれ帝国軍が聖王国に攻め込んできてもっと面倒くせえ事になるからな。そしてその上で――この隊の奴らが死なねえよう全力を尽くす。だからよ、みんなも勝利を目指しつつ…自分自身も死なねえよう全力を尽くしてくれ。…以上だ」
リヒターは壇上から降りた。そして椿の肩をポンと叩く。
「作戦、配置については軍師殿の方から通達してくれ」
「は、はい」
椿はリヒターに促され壇上に上がった。
「この隊の参謀を務めさせていただくツバキ・ニイミです。細かな作戦は部隊長を通じて通達しますが、大まかな配置としては――」




