決戦間近12
「え…?」
リヒターは驚いた。
正直、リヒターに2万の兵を率いさせるのはオスカーとエレオノールからの『命令』だと思っていた。いくら断ろうと、最終的には引き受けさせられるのだと。だから、断ってくれても構わないなどと言われるとは考えていなかったのだ。
「私はあなたを信じている。いや、私だけではない。共に戦ってきた者はみな、あなたの事は信頼している。…ツバキ、そうだろう?」
「はい」
椿はエレオノールの言葉に心から同意する。
「そのあなたが無理だと判断したのであれば、間違っているのは私たちの方なのだろう。あなたの判断を尊重しよう」
「けど、そうしたら歩兵部隊の指揮官がいなくなるんじゃないんすか?」
リヒターはエレオノールとオスカーを交互に見比べながら言った。
「その場合は、次善の策を練るとしよう。具体的には、私かガレス殿が歩兵部隊の指揮官を務める事になるだろう」
「そうなるでしょうね」
エレオノールの言葉にガレスが頷く。
「…」
リヒターは、しばらくの間考え込むように黙った。
エレオノールかガレスが抜ければ、騎馬部隊の攻撃力は大きく低下するだろう。オスカーがアイヒホルンの元へと到達できる可能性が減少するという事だ。
やはり勝利を掴むためにはエレオノールとガレスは騎馬部隊から外せない。
リヒターは考える。「断ってもらっても構わない」というエレオノールの言葉は、本音なのだろう。だからこそ、こんな少人数で集まったのだ。
もし大勢の前でリヒターが辞退したならば「命令から逃げたのだ」と思う者も出てくるだろう。そうなれば、彼に対して悪印象を持つ者も出てくるかもしれない。だが、今この場にいる少人数だけで話を留めれば…例えリヒターが辞退したとしても、その話が外に漏れる事はない。
オスカーやエレオノールのそういった配慮を、ありがたいと思った。しかし同時に、やはり自分には荷が重いのでは…という思いも消えはしない。
そんな時、ふとリヒターの視界に椿が映った。そして少年の方へ視線を向けた。何か彼らしい軽口を叩くのかと思ったが、ただ黙って椿の顔を見ているだけだった。その後、目を瞑り…ゆっくりと口を開く。
「…分かった。歩兵部隊の指揮官は、俺が引き受ける」




