アイヒホルン26
「なっ…!」
自身の突き出した槍により味方の胸が貫かれた。その事実に、槍を突き出した兵士は顔面蒼白になる。
「お、お、お前…お前のせいで…!」
自分は悪くない。悪いのは、槍を引っ張ったお前だ。そうとでも言いたいのか、口をぱくぱくとさせながら敵騎士を睨みつける。
「…」
敵の騎士は兜を被っており、顔を覆う面頬でその表情は読み取れない。無機質な鉄の面がそこにあるだけだ。
「お前の、せいで…!」
味方の体から馬上槍を引き抜き、騎士の体にそれを尽きたとようとしたその時、男は胸に熱い感触を覚えた。自分の胸元を見れば、そこに槍が突き立てられている。その槍の柄を握るのは、目の前の騎士だ。兵の口から血がごぼりと零れた。
「あと、3人か…」
騎士がぽつりと呟いた。この騎士は、すでに7人の兵を葬っている。そんな人物には似つかわしくない、涼やかな声だった。
「くそっ!」
「貴様ァ!」
「刺し違えてでも…!」
残った3名の兵士が一斉に動いた。たったひとりの騎士にこうまで好き勝手された事に対する怒りが、3人の闘志を極限にまで高めていた。こうなれば同士討ちになろうが何だろうが構わない。3人で一斉に襲い掛かり、憎き敵騎士を血祭りにあげるのみ。3人の乗った騎馬が一斉に騎士に殺到した。3本の馬上槍が一斉に突き出される。と、その直前――騎士がしゃがむような態勢で馬の背に足を乗せ…後方に飛び上がった。
全身を板金鎧で覆っているとはとても思えない、優雅な跳躍。騎士は突き出された槍の上を飛び越え…さらに後ろの兵を飛び越え、体に捻りを加えながら地面に着地した。
次の瞬間、飛び越えられた兵の首筋から血飛沫が舞い上がる。騎士は、兵を飛び越えざま手に持った馬上槍を兵の喉元に突き刺していたのだ。
「あと、2人」
騎士は小さく呟いた。




