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窮地

「各竜兵は敵軍の撹乱を優先的に行ってください。敵はこちらの竜に対抗する術を持ちません。ただし隊長と渡り合っていた女騎士、彼女には注意するように。無理に仕留めようとする必要はありません」


「了解!」


 特務竜兵隊副長、マルガレーテ・セファロニアの命令で6頭の竜達は城砦内に散らばった。竜兵は圧倒的な力を持つ…が、それでも6頭の竜と40名程の兵だけで城砦を制圧できるとは思っていなかった。マルガレーテの狙いは、城砦内を混乱に陥れる事だった。そうなれば城砦は組織的な防衛を行う事ができず、いずれ外の帝国兵が城砦内へと雪崩れ込む。十倍以上の兵力差によって瞬く間に城砦は制圧されるだろう。


「フハハ!どうした聖王国軍!」


 城砦兵の一団に向かって竜が突進する。城砦兵は弓を射掛け槍で迎撃しようと試みるも…竜は矢を物ともせず、槍を竜尾振り廻し《テイルスイング》で弾き飛ばす。


「やあああ!」


 竜目掛け一騎の竜騎馬が突っ込んだ。すれ違いざまに長剣ロングソードの一撃を浴びせる。竜の片目を切り裂いた。激痛に耐えかね、竜は天に向かって咆哮をあげる。


「くそう!噂の女騎士か!」


 エレオノールは馬首を巡らせさらなる一撃を加えようと試みるも、そこに別の竜が割って入った。


「大丈夫か!?」

「竜の片目をやられた!だが、問題ない」


 二頭の竜がエレオノールと相対する。エレオノールの後ろに乗っている椿が、彼ら二名を『解析』する。


 指揮45 武力82 知謀41  政策24


 指揮38 武力84 知謀46  政策31


(両者ともに、武力80超え…!)


 エレオノールが武力で優っているとはいえ、二対一で戦うには荷が勝ちすぎる相手だった。どうやら特務竜兵隊は武勇に優れた隊員で構成されているようだ。


「エレナ、相手は手練てだれだ。ここは無理に戦わない方がいい」


(しかも、相手は竜に乗っている…ん、竜?)


 そういえば、竜に対して解析アナリティクスを行ったらどうなるのだろう。少しでも有用な情報が得られないだろうか…そう思い立ち、竜に向けて解析アナリティクスを行う。


ATC:940 DEF:912 WEAK:


 という能力値ステータスが表示された。


(いや、ATC(攻撃力)DEF(防御力)って…)


 今まで表示されていた『家康の覇道』形式とは全く違う能力値ステータス。どちらかと言うとRPGの能力値ステータス表記に近い。つまり、ドラゴンという生き物は『家康の覇道』の規格から外れた存在だという事か。この数値は人間に対する者と違い過ぎて参考にならない…そう思いかけて、WEAKの項目に目がいった。


(これって、もしかして…)


 WEAK、すなわち弱点。そこには意外な文字が書かれていた。にわかには信じる事ができない。けれど、試してみる価値はある…。


「エレナ、ここは引こう」


「しかし…」


「僕に考えがある。リヒターさん達と合流しよう」





 ヘルムート・リヒターは城砦中央で迎撃の指揮を取っていた。


「リヒター部隊長!敵竜兵のうち2体が城砦北側へ向かいました」


「了解だ。重装歩兵100名と軽装歩兵100名、北側へ向かってくれ。まずは重装歩兵が囮になって注意を引きつける。その後、物陰から軽装歩兵が攻撃。ただし無理はするなよ」


「はいっ」


「部隊長!南方面の竜兵が城砦内の建築物に放火を行っております!」


「あー…分かった。消火したいが後回しだ。弓兵隊200名を向かわせる。ひとまずそれで竜を追い払え」


「はっ!」


 竜の力は圧倒的だ。しかし、弱点もある。その巨体ゆえに小回りが効かないのだ。それを念頭にリヒターは指揮を行う。


(だが、それは相手も分かっている)


 建物が密集し、物陰から城砦兵に近付かれ囲まれる危険性のある場所にはうかつに近寄ってこない。そして、敵の狙いは城砦内を混乱に陥れるという点にあるはず…無理をして責めて来るような事はない。


(こっちはさっさと竜共を倒さないとなんねえのによ。…くそっ。面倒臭え)


「リヒターさん!」


 声の方に目を向ける。そこには、竜騎馬に乗ったエレオノールとその背に掴まる椿の姿があった。


「エレオノール殿に軍師殿。いったいどうしたんすか?」


「作戦があるんです!」


「作戦?」


 椿は、解析によって得られた竜の弱点、そしてそれを突くための方策をリヒターに伝えた。


「なに?そんな方法で、竜を…?」


 リヒターは椿の作戦を訝しんだ。そんな方法が本当に竜に対し効果があるのか疑問だった。


「…だが、試してみる価値はあるか」





 西城壁上では、ユンカースとジークフラムの戦いが続いていた。


「はっはァ!」


「ぐっ…」


 大剣グレートソードの薙ぎ払いを、両刃直剣ブロードソードで辛うじて受ける。ただの一撃で両刃直剣ブロードソードは折れ曲がり体が大きく弾き飛ばされた。ユンカースは役に立たなくなった両刃直剣ブロードソードを投げつける。ジークフラムはそれを易々とかわした。その隙に、地面に落ちていた短剣を素早く拾い身構える。


「なかなかやるじゃねえか優男」


「…」


(何言ってやがる)


 彼我の実力差は決定的だった。防御に徹しているからこそなんとか凌げている状況だ。


(このままじゃジリ貧だ)


 ここでジークフラムと戦い続けたとして、いずれ負けるのは目に見えている。いや、それとも帝国軍が城砦内に雪崩れ込んでくるのが先か。


(どっちにしろ、未来さきはねえ)


 今までは奇策を弄して帝国軍の猛攻に耐えてきたが、いよいよ化けの皮が剥がれてきたか。


(だが、諦める訳には…いかねえよな)


 振り下ろされる大剣グレートソードを、身を屈めてかわす。戦っている味方がいる以上…そして彼らは自分を信じて戦ってくれている以上、司令たる自らが諦めを受け入れる訳にはいかなかった。


(堀の炎が消えるまで…あと、7、8分か)


 それまでに場内の竜兵を駆逐して迎撃体制を整えなければヌガザ城砦は陥落する。ユンカースは、今は仲間を信じて攻撃に耐え続けるしかなかった。

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