アイヒホルン18
「カッスル千人隊隊長討ち死に!」
「ミスラン千人隊隊長生死不明です!」
総大将、クヌートソン男爵の元に次々と報告が届く。いずれも味方の指揮官が倒れたという報告だ。
「男爵、ここは一度引いた方が良いのでは…」
クヌートソンの側近が進言した。クヌートソンの父の代から男爵家に仕えていた騎士で、名はステファンという。彼は老齢だが、クヌートソンの右腕といっていい存在だ。
「引くだと…?こちらは2万、敵は1万だぞ…!」
クヌートソンは唸るような声をあげる。彼の常識から言えば、倍の兵力で戦って負けるなどあり得ない事だった。
「確かに今は敵に勢いがあるかもしれん、だがそれでも兵力は未だこちらが上だ!いずれ敵の勢いも弱まる!」
そう言って、戦いの継続を周囲に示した。クヌートソンは決して軍事に疎い人間ではなかった。何しろ、北統王国で何年も軍人として過ごしてきたのだ。しかし、彼は今まで一度も聖王国の聖騎士や帝国軍上将軍クラスの強敵と相対した事はなかった。そして、いま彼が相手にしているのはその上将軍なのだ。
「なっ…もうここまで…!」
「敵襲!敵襲!」
突如、クヌートソンの前方を固める兵達が叫ぶような声をあげた。
「なっ…まさか、もうここまで敵が来たのか…?」
クヌートソンの顔が驚きと恐怖に歪んだ。




