アイヒホルン15
隊長、副長と続いて倒れたゴーチエ隊はもはやまともな陣形を組めてはいなかった。
「た、隊長と副長が倒れたって聞いたぞ!どうするんだ!?下がるのか?ここに残るのか!?」
「お、俺に聞いたって知る訳ないだろ!」
兵たちが混乱を露わにする。兵士とは指揮官がいてこそその本分を発揮できるのだ。指揮官のいない兵だけの集まりは、それはもはや軍ではない。
そこにユルゲンと彼の指揮する槍騎兵が突っ込んだ。ユルゲンはその両手に槍を持っている。ロルフの扱う投槍以上に珍しい存在…二槍流だ。
「ひぃっ…!」
ユルゲンによる騎馬の突撃を受け、兵たちは尻込みをする。まともに槍を構える事すらできない。その横を、ユルゲンは通り過ぎた。
(どこだ…そろそろ、後方から新たな指揮官が現れるはず…)
ユルゲンは兵たちの存在など眼中になかった。彼の狙いは、最前線が崩れた事で後方から派遣されるであろう新たな部隊…その指揮官だ。敵陣の奥へ深く深く突き進んでいく。そこで、右前方から怒声が響いた。
「おい!貴様ら!何をしている!槍を持て、槍を…!」
(そこか…!)
声の方へ向かって馬首をめぐらした。そこに指揮官がいると判断したからだ。
「きさまっ…!」
敵指揮官もユルゲンの存在に気がついたようだ。すぐさま剣を抜き、迎撃態勢を取る。
「この俺に勝負を挑むとはいい度胸だ!我こそはクヌートソン男爵配下の…」
「うるさい」
そう言い捨てて、槍を振るった。
まず左の槍を振り、敵の剣を弾き飛ばす。そして右手に握った槍で、名も知らぬ敵将の喉元を貫いた。
ユルゲン・バイルシュミット。人呼んで、二槍流。
彼は敵指揮官を討ち取った事に対してさしたる高揚も示さず、配下の槍騎兵たちに指示を下した。
「敵兵は無視しろ。指揮官だけ狩っていけばいい。…いくぞ」
槍騎兵たちは、敵軍の中を突き進む。




