アイヒホルン8
北統王国、王宮内。アイヒホルンに与えられた部屋には七人の男女が集結していた。六人が背筋を伸ばして立ち、ひとりが椅子に腰かけている。
椅子に座っているのは、他の六人の上官であるアイヒホルンだ。彼の眼前には巨大なテーブルがあり、そこには地図が広げられている。
アイヒホルンの横に立つのは、彼の副司令官であるバルクホルン。この中で最も年長で、最も長身だ。
「状況を説明する」
アイヒホルンが口を開いた。
「現在、聖王国軍7万…通称グロスモント軍は北統王国の深くまで入り込み、商業都市スルズで停止している。兵を休めているのだろう」
グロスモント軍は負け無しの快進撃を続けている。その損害は軽微だ。だが、それはそれとして常に戦いを続ければ兵は疲弊してしまう。その疲れを取るために現在は兵たちを休めているのだろう。
「報告によると、グロスモント軍は略奪などは行わず…金銭を支払いスルズで食料を買い求めているという事だ。スルズの住人もグロスモント軍に好意的なようだな」
「スルズの住民は敵国に対して好意を持っていると?」
居並ぶ人物のひとり…いかにも女性騎士、といった凛々しい雰囲気を纏った女性が発言した。やや険しい顔立ちだが、亜麻色のショートヘアが美しい人物だ。
「商人というのは、金を払う相手には好意を覚えるものだ。敵であろうともな。増してやスルズは北統王国上層部に対しに反感を持っている。北統王国はかつて財政難に陥りかけた際、スルズの商人に対して大規模な財産没収を行ってその難を乗り越えた事がある。商人たちは、いつまた理不尽な理由で財産を奪われるか戦々恐々としているという訳だ。それよりも、経済的に安定している聖王国がこの地の支配者になって欲しい…それがスルズ商人たちの本音だろう」
「商人というものは…節操がありませんね」
女性騎士が不快そうに言い捨てた。
「利益を優先するのが商人というものだ。だが、我々は違う。我々は軍人であり…貴族だ。その矜持を持って、下賤な者どもを誅してやろうではないか」




