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侵入

 竜は両手両足の爪を食い込ませ、その巨体をがっちりと城壁に固定している。


「さあ、やれ!」


 竜兵の号令を受け、城壁に食い込ませていた片腕を剥がした。腕を振りかぶり…叩きつける。


 破砕音。


 城壁を構成する煉瓦のいくつかが吹き飛ぶ。次は逆の腕を振りかぶり…叩きつける。少しずつ。しかし確実に城壁が抉られていく。


「や、やばいっすよ!」


 叫びながら、エマは竜に向かって矢を射掛ける。竜の羽に突き刺さる…が、全く堪えていないようだ。竜は城壁に対する掘削作業を続ける。


「油だ!油をかけろ!」


 ユンカースの指示で二匹の竜目掛け油が降り注がれる。そして、


「燃やせ!」


 燃え盛る松明が投げつけられた。竜に付着した油に燃え移り、その肉体が炎上する。竜は咆哮をあげる。聞く者の心胆を寒からしめる絶叫だった。


「ぐあっあ…」


 竜の背に乗る竜兵にも炎は燃え移り、彼らはたまらず堀の中へと転落した。しかし…、


「まだ動くのか…!」


 全身を炎に包まれ、咆哮をあげながらも竜は城壁から離れようとはしない。目の前の城壁を抉り続ける。


「岩だ、岩を落とせ!」


 城壁の上に置かれた巨石が、十人ほどの兵に押し出され竜に向かって落とされた。馬一頭分の重さはあるだろう。しかしそれを受けても竜は尚も城壁を穿ち続ける。二つ目を落とす。もろに竜の背中に直撃した。一匹の竜が堀の下へと落下した。さらにもうひとつ。もう一匹の竜も深い堀の底へと叩きつけられる。


「…かなり抉られたな」


 竜を落とすまでにかなりの量の煉瓦レンガを剥ぎ取られた。もっとも薄くなったところでは、城壁は半分ほどの厚さにまでなっているだろう。


(火口に住んでるから火には強い、おまけに岩を削って巣を作る性質から固い城壁を掘るのもお手の物ってか)


「ちっ…」


 ユンカースは舌打ちする。竜こそはヌガザ城砦を落とすのにうってつけの存在だという事だ。付け加えて、風が出てきた。もう粉塵爆発は使えない。


 敵陣に目を向ける。敵は、すでに第二陣を出撃させようとしていた。





「第一陣、城壁から引き剥がされました。しかしかなりの掘削に成功しています。第二陣、もしくは第三陣で城壁を打ち破れそうですね」


 特務竜兵隊副長、マルガレーテ・セファロニアが淡々とした口調で隊長に報告する。


「第二陣、出撃してよろしいでしょうか?」


 第二陣である二匹の竜もすでに出撃の準備を整えていた。後は、隊長であるジークフラム・ガイセの号令を待つのみだ。


「…ったりいな」


「え?」


 ジークフラムは何か呟いたようだ。しかしマルガレーテにはよく聞き取れなかった。


「いちいち第一陣だとか第二陣だとかかったりいっつってんだよ」


 そう言いながら、付近の兵から戦鎚ウォーハンマーを受け取った。3mを超える長さのポールに斧が備え付けられている武器だ。並の人間であれば保持するのでさえ困難だろう。それを片手で悠々と持つ。そして自身のドラゴンの背に乗った。マルガレーテは、特務竜兵隊隊長が何をするつもりなのかが分かった。


「ガイゼ隊長!お待ちを!隊長の出撃は城壁を打ち破った後で…」


「んなチマチマしたの待ってられっか!おい!テメエら!」


 ジークフラムは自身の部下…竜兵隊に顔を向ける。


「俺が道をブチ開ける、ついて来い!敵を蹂躙するぞ!」


 ジークフラムの乗る竜が咆哮と共に走りだした。





「新たな竜が一頭、こちらへ向け走り出しました!」


 兵が叫ぶ。


「迎撃だ。今度は取り付かせねえ。竜が飛んだら、その背中目掛けて岩を落とせ!飛翔中なら耐えられないはずだ」


 ユンカースの指示。それに従い、兵達はいつでも岩を落とせるよう身構える。


「弓兵隊も迎え撃つっすよ!」


 竜には矢が通用しない。それは先刻承知だ。しかしそれでも少しは効果があるはず。弓兵隊は矢を射掛ける。


「うぜえ!」


 竜の上に乗るジークフラムが戦鎚ウォーハンマーを振るった。矢が弾かれる。竜の突進は止まらない。堀端に達した。翼を広げ…跳ぶ。勇壮で、そして何よりも凶々(まがまが)しい飛躍ジャンプ


「今だ、落とせ!」


 ユンカースの指示で岩が落とされる…が、


「おら、避けろ!」


 ジークフラムの怒声。それに応じて、竜は右の翼だけを羽ばたかせ僅かに進路を変えた。ギリギリの所で岩を交わす。さらにその瞬間、ジークフラムは手に持った戦鎚ウォーハンマーを勢いよく振りかぶる。


「ぎゃははァ!」


 竜が城壁に達したその瞬間、ジークフラムは城壁に戦鎚ウォーハンマーを叩きつけた。あまりの勢いに戦鎚ウォーハンマーは折れ曲がる。しかし、城壁もただではすまなかった。牛が一頭は通れるであろう穴が、城壁の向こうまでぽっかりと貫通していた。


「嘘だろ…」


 ユンカースの絶望的な呟き。いくら竜に抉られ脆くなっていたとはいえ、人の力で城壁を破壊できるものなのか。


 ジークフラムの乗る竜は、城壁に空いた穴を押し広げながら城砦内へと入る。


 城砦戦闘開始より8日目、帝国軍はついにヌガザ城砦への侵入を果たした。

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