進行準備6
結局、プレゼントの購入は椿、エマ、ハティの三人で出かける事となった。元々巨大要塞に住んでいたハティは土地勘がある。彼女も同行してくれるのは有難かった。
「ねえ、エレナの喜びそうなものって何だか分かる?」
椿はエマに問いかけた。
「そうっすねえ、エレオノール隊長の喜びそうなもの…ううーん…」
エマは頭を悩ませる。
「エレオノール隊長は、基本的に装飾品は着けないし…食器や調度品なんか持ち運べないっすからねえ」
「うん、そうなんだよね」
プレゼントと言っても、あまり大きな物は渡せない。これから北統王国の奥へ奥へと進行していくのだ。持ち運びに労力を要する物を渡した所で、持っていく事はできない。
「ひとまず、商店を見回してみてエレオノール隊長の気に入りそうな物がないか探してみるってのはどうっすかね?意外な物が見つかるかもしれないっすし」
「そうしようか」
椿が頷くと、ハティが会話に入って来た。
「それなら、ボクが案内する」
という事で、三人は市街地へと向かった。
巨大要塞の市街地は、十万を超える人間が住むだけあって広大だ。なんでも、巨大要塞は世界最大の要塞であると同時に北統王国でも第三の人口を誇る都市だという。
市街地は、商店や酒場の立ち並ぶ商業地域と住居の多い住宅地域に分ける事ができる。椿たちが目指すのは、商業地域だ。
要塞の中心である城館から歩いて一時間程度で商業地域に到着する。巨大要塞は要塞都市だけあって、商業地域もその性質に合わせて特化していた。つまり、兵士が必要とするもの…酒場、武具屋、食料品店などが多い。聖都にあるような高級服飾品店や本屋といった店はあまり見かけない。
とはいえ、巨大要塞にも金持ちはいる。そんな人々を相手にする装飾品店なども、無い事はない。ハティの案内で、そういった店を見て回った。しかし、
「ううーん…なかなかコレっていうのが見つからないっすねえ」
エマが呟いた。
彼女の言う通り、椿たちは良いプレゼントを見つける事ができないでいた。
(考えてみれば、エレナって貴族だし…もし欲しい物があったら自分で簡単に買えちゃう立場だもんなぁ…)
エレオノールは、門閥と呼ばれる政権の中枢を担う貴族ではない。とはいえ貴族は貴族。もし欲しい物があれば、大抵の物は買えてしまうだろう。そんな立場の人物に何をあげれば喜ばれるのか…椿にもエマにも思いつかなかった。
「やっぱ無難に、お花とかお菓子とかがいいのかな…」
結局、椿はそんな結論に辿り着いた。工夫はないが、そういった物をプレゼントされて嫌な気持ちにはならないだろう。
「…じゃあ、花屋に行く?」
ハティがそう提案した時…不意に、声をかけられた。
「おう、軍師殿じゃねえですか」
澄んではいないが、精悍さを感じる事が出来る声だ。そちらへ視線を向けると、酒場の軒先でエレオノール隊竜兵分隊長…ズメイ・バルトシークがこちらへ向けて手を振っていた。




