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ハラマキリュウ

 城砦防衛戦闘5日目。


 堀の埋め立ては続く。兵隊が並んで10人近く通れそうな土嚢の道が、すでに堀の半ばほどまで作られていた。


 帝国軍は二人一組で作業を行なっていた。ひとりが盾を持ち、城壁から射かけられる矢を防ぐ役割。そしてもうひとりが実際に土嚢を積む作業を行う。


「落とせ」


 ユンカースの指示で城壁の上から丸太が落とされた。土嚢に命中する…が、そのほんの一部を崩しただけだった。焼け石に水といった所だ。


「はい、どうぞ」


 ツバキは、城壁で戦う兵士たちに食事を配っていた。今の自分にできる事はこれしかない、そう思った結果の行動だった。食事の内容は、ビスケットと蜂蜜入りの湯。戦いの合間にも食べる事ができるように…という配慮がなされていた。


「あ、ツバキっち。感謝っす!」


 エマは湯を受け取ると、喉を鳴らして飲み干した。


「いやー、生き返るっす」


「…戦況はどう?」


「んー…やっぱり、堀の埋め立てを妨害するにも限界があるっすね。兵の数は相手の方が圧倒的に多いし…あと2、3日したら完全に道ができちゃうっすよ」


「…」


「司令には何か考えがあるみたいっすけど…」


 エマは心配そうに戦場を見下ろした。





 城壁から降りる途中、階段でエレオノールと行合いになった。


「あ、エレナ。どうしたの?」


「いや、エマに伝えておきたい事があってな。ティラグラム山脈を撤退中の本隊からハラマキリュウを使った連絡があったものでね」


「…ハラマキリュウ?」


「おや、ツバキはハラマキリュウを知らないのかい?」


「う、うん…」


「ハラマキリュウというのは、両掌に乗る程度の大きさの亜竜だよ。賢く、人にもよくなつく。軍ではハラマキリュウを飼い慣らし、文書を運ぶのに利用しているんだ」


(つまり…伝書鳩みたいな感じか)


「連絡によると、撤退は予定通り進行している…との事だ」


「予定通りって事は、あと5日間で安全圏まで逃げれるって事だね」


「その通りだ。山越えによる負傷者も今の所出ていないらしい」


「良かった。…でも、やっぱり竜っているんだね」


「どういう意味だい?」


「えっと、それはその…」


 ――僕のいた世界には竜なんていなかった。そう言おうとして、自分が異世界から来た事はまだ話していなかったのだと思い出した。いつかは話をするべきなのだろうが…機会を逸してしまっていたのだった。


「えっと、つまり、竜ってものを直接見た事がないから…実際にいるっている実感がなくって。やっぱり、本物の竜って凄いのかな?例えば、火を吐いたり…喋る竜とか山みたいにおっきな竜がいたりとか。あ、他にも、人を乗せて飛んで戦う竜とか…」


 竜、という言葉から連想されるイメージを口にする。しかし、エレオノールはそんなツバキをクスリと笑った。


「ふふ、ツバキは幻想物語ファンタジーの読みすぎなんじゃないのかい?確かに純潔種の竜の巣は火口近くにあるけれど、火を吐いたりはしないし…喋るほど知能のある個体もいない。大きさは、立ち上がった状態で頭までの高さで4mといった所かな」


「…そうなんだ」


 竜がいるとは言っても、それは超常的な力を持っている訳ではないらしい。言ってみれば、ただの大型爬虫類という事か。


「それに、純血種の竜は空を飛ぶ事ができない。翼の大きさに比して体が重すぎるんだ。鶏が飛べないのと同じだね。ただ…」


 エレオノールは真剣な面持ちになる。


「竜に乗って戦う…というのは帝国軍で研究されているらしい。竜の気性が荒くて、未だ制御出来かねているという話だが」


「そっか…」


 ――それじゃあ、また後で。そう言って、エレオノールは階段を登っていった。


 城砦防衛戦闘5日目は大きな動きなく終わり…6日目、7日目とそれは続いた。そして8日目、帝国軍は土嚢による橋を完成させる。

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