新司令官33
エレオノール、ホフマン、そして椿とハティを含む千名の騎馬隊はジラドルフ隊の側面にまで迫っていた。
「ここで隊を二つに別れよう。私は七百騎を率いて敵部隊の左翼に突撃を行う。椿はホフマン率いる三百騎に同行して、グロスモント隊と合流して欲しい」
「うん、分かった」
エレオノールの指示に椿は頷く。
「伝令を送る余裕もなくて、グロスモント隊と意思疎通できていない状況だからね。どうか、隊長のオスカー・グロスモント卿にこちらの意図を伝えて欲しい。それと、可能であれば君の力をグロスモント卿のお役に立ててくれ」
「まかせて。…エレナ、無理しないでね」
「ああ、分かっているよ。あくまで主力はグロスモント隊…私は敵の注意を側面に向けさせ攪乱するだけだ」
という事で、騎馬隊は再び二手に別れエレオノール率いる七百騎はジラドルフ隊の側面に突撃。椿はホフマン率いる三百騎と同行しオスカーの元へと向かっていった。
椿たちは、グロスモント隊の中に入ると隊員の案内でオスカーの元へと向かっていく。
「グロスモント隊長は、おそらく最前線の中央付近で戦っておられるはずです」
その言葉の通りグロスモント隊とジラドルフ隊の最前線、その中央に到着した椿たちだったが…その時には、すでにオスカーとジラドルフの対決は開始されていた。
「があああ!」
ジラドルフは、灰色熊を思わせる雄叫びをあげオスカーに襲い掛かる。全身の力を乗せた戦斧の一撃。オスカーはそれを両手剣で受ける。彼の乗る愛馬ごと後ろへと弾き飛ばされる。
「まだまだぁ!」
馬を駆けさせ、追い打ちの一撃。戦斧ごと体当たりするかのような思い攻撃だ。オスカーは、これも受ける。しかし反撃する事はできない。防戦一方だ。
「グロスモント隊長!」
グロスモント隊の兵士が悲痛な叫び声をあげる。
(グロスモント隊長って事は…押されてるのがオスカー・グロスモントさん…?そして戦斧を持ってるのは敵の隊長…?)
椿はまさかこのような場に到着するとは思ってもいなかった。どうしたものかと周囲を見回す。すると、周囲の兵士もオスカーとジラドルフの戦いに割り込めないでいた。
下手に加勢した所で足手まといになるだけだろう。矢を射掛けたとしても、この状況であればどちらの隊長に命中してしまうか分からない。そして何より、オスカーとジラドルフ、両者ともに周囲の手出しを拒んでいるように見えた。




