新司令官31
「進め!進めぇい!」
ジラドルフと彼の率いる軍団が前線へと進み出る。さすがにジラドルフの率いる部隊は統率が取れており、グロスモント隊を押し返していく。
「押されるな!ここが押し返されれば隊全体に影響が出る、持ちこたえろ!歩兵隊!盾を構えよ!」
グロスモント隊も敵の勢いに取り乱す事はない。ひとまず攻勢は中止し、下級指揮官の指示で盾を構え防御態勢を取る。
「どけええい!」
ジラドルフは、愛用の武器である長大な戦斧を振るう。その一撃は盾を弾き飛ばし、兵を薙ぎ倒した。
「まだまだぁ!」
さらに続けて二撃、三撃と戦斧を振り回す。そのたびに兵たちは薙ぎ倒され、ジラドルフ隊はグロスモント隊を押し返していく。
「すげえ…」
「ジラドルフ将軍って、こんなに強かったのか…?」
ジラドルフ隊の隊員たちですら、その武勇には驚きを隠せなかった。ジラドルフが勇猛な将軍だというのは伝え聞いていたが、彼自身が前線で戦う姿を見た者はあまりいなかったからだ。
(久しく忘れていたな…前線で戦うこの感覚を)
若き日のジラドルフは、常に隊の戦闘に立って戦う勇猛な兵士だった。だが、歳を重ね将軍となってからは隊の最前線で戦う事はなくなった。それが将軍の正しい姿だと思っていたからだ。しかし――彼の本性は、戦場の最前線に立ち自らが敵を打ち倒す事に滾りを覚える戦闘狂だった。
(最初からこうしておけば良かったのだ。…いや、違うな)
バウテン上将軍の作戦は間違ってはいなかった。しかし相手はその上を行ったのだ。その結果、ジラドルフは追い詰められた。そして、その窮地が彼の本性を呼び覚ましたのだ。
ジラドルフ隊の隊員も、ジラドルフの獣性に感化されたかのように敵へ向かって殺到していく。数の上での優位も、敵を欺く作戦もない。ただ弱い方が負ける…それだけの戦いだ。そして、その単純な戦いの場でジラドルフを止められる者はこの場にはいなかった。――オスカー・グロスモントを除いて。




