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作戦変更

 城砦防衛戦闘2日目、その夜。帝国軍の攻撃は未だ続いていた。しかし本気で攻め落とそうという動きではない。夜の間も攻撃し、聖王国軍を疲弊させるのが目的のようだ。


 そんな敵に対し、ユンカースは西部城壁防御軍を三つの部隊に分ける事で対応した。部隊の指揮官はそれぞれエレオノール、エマ、リヒターとした。


 一つの部隊が戦っている間、他の二つは休息に当たる…三交代制の運用だった。もちろん、いざとなれば三隊全てで防御に当たる。しかし攻めが弱まっている今は体力の消耗を最小限に抑えるのが得策だというのがユンカースの考えだ。


 ツバキはエレオノール隊の配属となった。今はエレオノール隊は休息の時間だったが…。


 ツバキは、広場で剣を振るっていた。休もうとしたが、今日も気が昂って眠れなかったのだ。城砦防衛戦闘が始まってから一度も役に立てていないという焦りもあった。そんな気持ちを紛らわすために剣を振っていたのだ。


「ツバキ」


 闇の向こうから名を呼ばれた。凛とした張りのある声。エレオノールだった。


「部屋にいないからもしやと思って来てみたが…君は稽古熱心だね」


「ううん、そんなんじゃないんだ。ただ、眠れなくて」


「そうか…だが眠れないからと言ってあまり剣を振りすぎるのも良くないよ。慣れない君には、その剣でも重いだろう」


 ツバキが振っているのは、刀身の短いショートソードだった。エレオノールに選んでもらった剣だ。


「眠っても腕の疲れは簡単に取れないからね。いざという時に動けなくては、鍛錬の意味もない」


「うん、そうだね。…でも、つい…その、焦っちゃって」


「ふむ」


 エレオノールが椿に近付いて…その体を後ろから抱きしめる形で包み込んだ。今のエレオノールは甲冑を身に付けていない。その体の柔らかさ…そして体温までがツバキに伝わる。


「エ、エレナ!?」


「ツバキ、剣を構えて」


「う、うん…」


 戸惑いながらも、ツバキは剣を構えた。


「君はまだ膂力が足りないから、両手で剣を使っているね。それはいい。けれど両手に力を入れるのは間違いなんだ」


「…どう、いう事?」


「つまり、実際に力を込めるのは片手だけでいいんだ。もう片方の手は、支えるために軽く添えるだけ。こんな風に」


 エレオノールが、剣の柄を握る椿の手を上から優しく包む。ツバキは、しなやかな指の感触にくすぐったいような…ゾクリとするような、不思議な感覚を覚えた。


「そして、剣を振る時は剣先の速度が最大になるように振るんだ。つまり、剣を押し出すというよりは円を描くようなイメージで。さあ、やってごらん」


 エレオノールに言われた事を意識して剣を振る。


 ――ひゅん、と風を斬る響きが聞こえた。今までは鳴らなかった音だった。


「エレナ…!」


「うん、いい音だ」


 二人は微笑みあった。





 帝国軍ヌガザ城砦攻撃隊、その本営天幕内。


「くそう、このままではらちが開かん!」


 苛つきに満ちたモットレイの怒声。声を張り上げる度に右肩の傷が疼く。そしてその疼きが、さらに彼の怒りを増幅させた。


「どうすればあの城砦を落とせる!?…そうだ、側面の…北側か南側の崖を登るというのはどうだ?」


「…現実的ではありません」


 副官、マシュ・グリフィスが沈痛な声で言った。


「よほど身軽な者でなければ崖を登り城壁を越えるなどできませんし…崖側の城壁にも見張りがいるでしょう。登っている所を狙い撃ちにされます」


「…では、手投げ投石具(スリング)で石を投げ城壁を破壊するというのはどうだ!?」


「あれ程の厚さの城壁を手投げ投石具(スリング)で破壊するのは不可能でしょう」


「ぐっ…ではどうする!?」


「…時間はかかりますが、確実な方法を取られてはいかがでしょう?」


「なんだ、それは!?」


「土嚢で堀を埋めるのです。手間はかかりますが、堅実な方法かと」


「…しかし、よほど時間がかかるのではないか?」


「堀の全てを埋めるとなればそうでしょう。しかし、兵が通れるだけの道を確保できればいい。そして、破城槌で城壁を突き破るのです!」


 破城槌とは攻城兵器のひとつで、丸太などで作られた巨大な杭だ。簡単に言うならば、城壁に穴を開けるための馬鹿でかい釘のようなものだ。


「単純な破城槌であれば、丸太を加工するだけですぐに作れます。土嚢の上を通り、破城槌を何度か打ち込めば…堅牢な城壁であろうと、いつかは穿たれるでしょう」


「…土嚢で道を作るのに何日かかる?」


「…五日程度かと」


「ふうむ…ギリギリだな」


 帝国軍は、聖王国軍の本隊が安全圏まで逃げるのに必要な日数を10日間と読んでいた。これは、聖王国軍の見込みと一致する。


「出来れば2、3日の内に城砦を落とし、聖王国の王太子にまで迫りたかったが…」


 今から五日後となれば、山脈越えの先頭を進んでいるであろう王太子を追うのは間に合わなくなってしまう。しかし、後ろの部隊…一万名程度は捕らえられるはずだ。それで良しとするべきか。


「…よし、マシュ。明日からは作戦を切り替える。堀を埋めるぞ」


「はっ!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] …ツバキは…後に役に立つ為に、仲間全員を解析したらいいのでは?…実はものすんごい人材がいるかもしれないですし、青田買い感覚で人を見て育てる準備をする!…どうでしょう?
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