新司令官28
ホフマンたち騎馬隊と合流した椿、ハティはパウル隊から無事離脱した。パウルを人質としているため、離脱の際にパウル隊とホフマン騎馬部隊の間で戦闘が繰り広げられる事はなかった。
(よし、計算通りにいった…)
パウルを人質に取ったとしても、パウルの事など意に介せず隊員が襲ってくる危険性があった。だが、その可能性は低いと椿は読んでいた。それは、パウルが自分の命よりも将軍としての誇りを優先する指揮官だったからだ。そういった人物は、部下に好かれやすい。
(もっとも、もし自分の命を惜しんで降伏するような人だったらそれはそれでこの戦いの決着はついた訳だけど…)
椿は、たった今離脱したばかりのパウル隊をちらりと振り返る。おそらくパウル隊はこれ以上戦いを挑んではこないだろう。万が一パウルの後任を務める副長が好戦的な人物で、人質のパウルを無視して攻撃を命令しようとしたとしても隊を掌握するのに時間がかかるはず。
(パウル隊は指揮官がいなくなって今は混乱している。エレナやズメイさんなら、問題なく離脱できてるはず)
「椿殿、素晴らしい作戦でした」
先頭を進むホフマンが椿を振り返り軽く微笑んだ。
「ホフマンさんこそ…見事な突撃でした。ホフマンさんがいてこそ今回の作戦は成功したんです」
「…ボクは?」
パウルを馬に乗せたまま隣を並走するハティが、椿の顔を覗き込んだ。
「もちろん、ハティの力も大きいよ。ありがとう、ハティ」
「へへ…」
少女は嬉しそうにはにかんだ。椿は一瞬優し気な表情を見せるも、すぐさま正面を向き気を引き締める。
「それじゃあ、一旦歩兵部隊の所に戻ってリヒターさんに敵の隊長を預けよう。そしてエレナと僕たち騎馬隊で新司令官の援護に向かうんだ」
「ん?騎馬隊って事は…千人だけで?あんまり意味ないような気がするけど…」
とハティ。
「いや、例え千人でも効果は大きいはずだよ。僕らが援軍に向かう事で、エレオノール隊とパウル隊の戦いは僕らの勝ちだとはっきり示す事ができる。つまり敵軍に心理的動揺を与える事ができるはずなんだ」
「なるほど…」




