新司令官26
パウルの作り上げた陣形は急場しのぎとしてはかなりの完成度と言ってよかった。ホフマンの来る右翼方面に三列の隊列を並べ、それぞれを指揮官に統率させる。列そのものは決して厚いものではなかったが、一列一列が確実に騎馬隊の勢いを削ぐだろう。
騎馬隊は、まず一列目と接触する。
「パウル将軍をお守りするのだ!」
一列目を指揮する部隊長が檄を飛ばす。ここまで来ればホフマンも緩急をつける事はなく真っ向から騎馬隊を突入させた。
「ここを通りたければ拙者を倒してから行けい!」
部隊長はホフマンに向かって突き進み剣を振りかぶった。ホフマンはそれを避けるとすれ違いざまに、
「…本当は馬を傷つけたくはないのですが」
そう言って部隊長の乗る馬の尻に突きを放った。人間が鎧を着ているのと同様に、騎士の乗る馬は馬鎧を着用している。しかし、ホフマンの攻撃は見事に馬鎧の隙間をついた。突然の痛みに、馬は棹立ちになる。
「お、おい、待て…暴れるな!」
興奮した馬は、部隊長の制止も聞かずその場で暴れ回る。敵が混乱した隙をつき、騎馬隊は隊列を突破した。
続いて二列目。ここにも騎馬隊はぶつかっていく…が、一列目よりも勢いは落ちている。
「ホフマン部隊長…!ここは我らがこじ開けます、前へ…前へ!」
騎馬隊員たちが叫ぶ。彼らは老兵ながら奮戦するホフマンの姿に闘志が昂っていた。騎馬突撃の勢いは失われていたが力ずくで隊列をこじ開けていく。そうやって作られた隙間に、ホフマンと彼の周囲の騎兵三十騎程が突入した。
そして三列目。
「ここまで来た事は褒めてやろう…だがそれも終わりだ!」
筋骨逞しい部隊長がホフマンの進撃を遮った。この人物はこの辺りの部隊長の中では最も武力に優れた人物なのだろう。ホフマンの繰り出した剣を、一撃、二撃と受け止める。
「ぐはは!我を容易く倒せると思うなよ!」
連戦続きでホフマンにも疲労の色が見えた。繰り出す剣の勢いが落ちている。加えて、味方は僅か三十騎。
「…さすがに、老いぼれではここまでですか」
呟くと同時に、自身の後方をちらりと振り返った。
「後は頼みましたよ、ツバキ殿」
「――はい!」
ホフマンの後ろから一頭の馬が飛び出す。それに跨るのは…椿とハティだ。




