新司令官22
姿を現した竜は、北統王国軍の陣地へ突進するとその尾を振り回した。竜尾薙払の一撃で、数名の兵士が吹き飛んだ。
「ぶ、部隊長!竜!竜です!」
「わ、分かっている!取り乱すな…!」
聖王国軍に竜が存在する事はエッカルトからの報告で分かっていた事だ。だが、話に聞くのと実際に見るのではその衝撃度は大いに異なる。兵の多くは取り乱し、一時的にパウル隊の前線は崩れた。
「ようし、野郎ども!突き進むぞ!」
ズメイの号令で、五頭の竜は陣形の崩れたパウル隊の中に突入していく。
「ちょっと無理させるかもしれねえが…たのむぜ、相棒。後で水牛のステーキを奢ってやるからよ」
そう言って、ズメイは自らの跨る竜の背を撫でた。
「パウル将軍、前線に竜が出現いたしました!前線は混乱しています」
「ふうむ…やはり、竜か…」
パウルは僅かに口を歪める。
「竜への対処法は分かっている。投斧部隊を向かわせろ。…投斧を所持しているのは何名だ?」
「は、はい…我が隊で投斧を装備しているのは、百人隊がひとつだけです。急な出撃だったもので、対竜用の装備を持った部隊は我が隊にはあまり多くありません」
「そうか。少し心許ないが、十分対処できるだろう」
竜は脅威だが、万能の存在ではない。例えば、機動力という点では騎馬隊に劣っている。また、その数も少ない。
(つまり、竜が我が隊に与える事の出来る被害は限定的だという事だ。かなり多く見積もっても千名という所だろう)
その間に歩兵隊を潰してしまえば、竜は孤立する。そうなれば討ち取る事も可能だろう。
「むしろ、危険なのは竜を過大評価し兵の士気が崩壊する事だ。各部隊長達に伝令を送れ!未だ我が軍が圧倒的優位…今は兵を落ち着かせるように、と」




