新司令官21
エレオノール隊VSパウル隊の最前線。
「攻めろ攻めろ!」
パウル隊前線の部隊長が兵を叱咤する。それに応えるパウル隊隊員の士気も高かった。何しろ相手は小勢、普通に戦えば負ける事はない。というよりもパウル隊隊員の意識としては、目の前の敵は進路に散らばる小石に過ぎない。そんなものはさっさと蹴散らし、ジラドルフ隊の救援に向かわねば――それが彼らの本音だった。
「重装歩兵隊、耐えてください!ここが正念場であります!」
ボゥの指揮能力の高さもあって重装歩兵隊は懸命に戦線を維持していたが、徐々に押され始めている。例え目の前の敵を倒したとしても次から次へと新たな敵が殺到してくるという状況だ。いずれは持ちこたえられなくなるだろう。
その後方、軽装歩兵隊の陣地。
「重装歩兵隊の右翼が崩れかけてる。軽装歩兵隊から五十名ほど援軍に向かってくれ。リッツの嬢ちゃんにも弓兵隊で右翼を援護するよう伝令を頼む」
軽装歩兵隊隊長であるリヒターは、エレオノールや椿が騎馬隊として突出している現在、重装歩兵隊、軽装歩兵隊、弓兵隊の三隊全ての実質的な指揮官として指揮を行っていた。
「…まったく、こんな面倒くせえ事やらされるとはな」
時折そうぼやきつつも、戦場から視線は逸らさない。彼が注目しているのは、右翼のエレオノール騎馬隊だ。
(まだか…?)
作戦を成功させるには、全てのタイミングを揃える必要がある。リヒターは、事前にツバキに教えられていたそのタイミングを焦れるような思いで待っていた。
そしてその時が来た――右翼のエレオノール隊が、パウル隊に向けて突撃を敢行したのだ。
「よし、今!角笛を鳴らせ――ズメイの旦那、出番だぜ!」
角笛が鳴り響く。と同時に、陣形内に配置されていた生物がその体を覆う布を振り払って叫び声をあげた。竜が姿を現したのだ。




