西方7
「副将…」
ボールキンの腹部を覆う板金鎧には、帝国兵のものであろう歩兵槍が深々と突き刺さっていた。この様子では、槍は内臓にまで到達しているだろう。
「リーム将軍殿…」
ボールキンは、自らの息子程の年齢である若き将軍の名を呼ぶ。その口からごぼりと血が噴き出した。
「どうか、帝国に一矢を…ヒューゴめの首を…」
そう言い残し、がっくりとうなだれた。
リームは前を――敵総大将、ヒューゴを睨みつける。背後で人が地面に落ちる音を聞いた。ボールキンが絶命し、落馬したのだろう。だが、振り返らない。騎馬の速度を速める。
「ヒューゴォォ!」
剣を振りかぶり、ヒューゴへと迫る。
「将軍、ここは拙者が」
ヒューゴの盾となるように、ルボル・ホイサーが進み出た。敵はただ一騎…とはいえ、その勢いは侮りがたい。大将軍であり総大将であるヒューゴ自身が相手をするには危険が高かった。
「いや、私が出よう」
そう言ってルボルを制し、ヒューゴが前へ進み出る。
「閣下!危険です!」
フィレルがそれを止めようとするが、ヒューゴは静かな声で答えた。
「案ずる必要はない。…私は、この時を待っていたのだ」
「え…?」
ヒューゴは馬を進め、剣を抜き放った。
「ヒューゴ!我らの怒りを…連合国の意地を…その身で味わえ!」
憎悪と闘志を漲らせリームが迫る。彼の振るう刃と、ヒューゴの剣がぶつかり合った。




