西方6
ヒューゴは、帝国軍のほぼ先頭で指揮を取っていた。そしてそれが彼の率いる兵の強さの源泉でもある。世界最強とも言われる『帝国の双剣』が、自分たちと肩を並べて戦っている――その事実に奮い立たない兵はいない。しかし、それは大きな危険を孕んでいる事も事実だった。ヒューゴ・トラケウという人物の存在が大きすぎるが故に、万が一彼が討たれでもした場合…全軍が崩壊する危険性がある。
リームはそこを突いたのだ。
「俺に続けェ!」
戦闘可能な兵、三千名…その全てをかき集め、ヒューゴへ向け一丸となり突撃を行う。当然ながら、帝国兵はそれを阻もうとリーム達決死隊に立ちはだかる。
「蹴散らせ!蹴散らせェ!」
リームは先頭で剣を振るい、立ちはだかる帝国兵の群れに隙間をこじ開ける。しかし、多勢に無勢だ。ひとり、またひとりと味方が討たれていく…だが、それでもリームの速度は緩まない。
「ええい!不甲斐ない!我こそは千人隊隊長、ドドム・ジムザ!大将軍の元には行かせんぞ!いざ尋常に――!」
「邪魔だ!」
名乗りを挙げ向かって来た千人隊長を、一刀の元に切り伏せた。疾風の如き勢いのまま、重装歩兵の間を駆け抜け、弓兵隊の矢をかいくぐり、敵騎馬隊を打ち倒し――ついに、分厚い障壁のような帝国兵を抜けた。ここまで来れば大将軍までの距離は僅か数百m、残すはヒューゴを固める親衛隊のみ――。
「よし、やったぞ諸君!このままの勢いで奴の首を――」
リームは振り返る。しかし、彼に続く兵は…副将のボールキンただひとり。決死隊三千名――その全ては、これまでの進撃で帝国兵に打ち倒されてしまっていた。




