西方3
「閣下…?」
フィレルは、ヒューゴに対して疑問に満ちた視線を向ける。敵が迫って来ているならば早急に手を打たなければならないはずだ。いかに優秀なヒューゴであろうと、ほぼ同数の敵に挟み撃ちにされれば勝機を失う可能性がある。
「もうしばらく待とう。そろそろ次の伝令が来るはずだ」
「え…?それはどういう…」
フィレルが驚いて問い返そうとしたその時、
「せ、西部方面の偵察隊より伝令!」
と、また新たな伝令兵が入室した。
「聞こう」
ヒューゴは静かに答える。
「敵国の首都より2万の兵が出撃した模様!」
「なっ…」
フィレルの表情に動揺が走る。北、南、そして西からの兵。合わせて6万5千によるヒューゴ本陣を狙った一斉攻撃。これは偶然生じた状況ではなく、明らかに敵による意図的な作戦だ。
「閣下、この地は一時放棄して東方へと撤退しましょう」
フィレルは提案する。敵国首都の兵は戦いに対する士気を完全に失っていると考えていた。ここで打って出てくるとは想定外だ。
「いや、それは悪手だフィレル将軍。ここは打って出るべきだ」
「え…?」
「直下の兵5万に通達。現在動かせる兵、その全てを出撃させる」
「り、了解いたしました!」
フィレルは素早く敬礼を行う。
「それで…どの方面にどれだけの兵を割り当てるのでしょうか?」
「5万、その全てを西方の敵軍にぶつける。先陣は――私が切ろう」
その命令から僅か30分後。5万の帝国兵は、西方へ向けて進軍を開始した。




