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適性

 椿は、ベッドから体を起こした。


(駄目だ、眠れない…)


 すでに日は暮れている。ユンカースから「休める時に休んどきな」と言われ、城砦内にある隊舎のベッドで休んでいたのだが…明日にはこの城砦に帝国軍が迫ってくると分かっていては、どうしても気が昂ってしまう。


 夜風に当たろうと隊舎の外に出た。広場では松明が掲げられ、兵士たちが何やら作業していた。さらに進むと…


「あれ…?」


 広場の隅の方で剣を振るっている二人組がいた。近付いて見てみると…エレオノールとエマだった。


「エレナと、エマ…?」


「ん?ツバキか」

「ツバキっち、どしたんすか?」


「いや、その…気持ちが昂って眠れなくて。それよりエレナとエマこそ、何してるの?」


「自分が、エレオノール隊長に剣を教えてもらってたんっす!」


 とエマ。


「おいおい、今は私は隊長ではないよ」


「あ、失礼しましたっす、副司令。…でも、なんか呼び辛いんですよう。やっぱエレオノール隊長は、隊長!って感じなんで」


 そうかい、とエレオノールは苦笑を浮かべた。


「確かに僕も、エレナは初めて会った時から百騎隊の隊長だったから…副司令ってのはちょっと変な感じかも。でもそれより、剣を教えてもらってたって?明日から戦いが始まるっていうのに、大丈夫?疲れない?」


「確かにそうなんですけど、そのう…自分、包囲網突破の時迷惑かけちゃったんで…今後はあんな事がないように、改めてエレオノールたいちょ…副司令に、剣術を見てもらおうと思って…」


(迷惑をかけたって?…ああ)



 少し考えた後、思い出した。確か包囲網突破の際にエマが帝国兵の槍に襲われて…それをエレオノールが救った事があった。それを指しているのだろう。


「自分、剣の扱いも馬の扱いもどうしても上手くならなくて…百騎隊の副長失格っす」


(エマは、あんまり戦いが得意じゃないのかな)


 そう思い、エマを『解析』してみる。


 指揮70 武力82 知謀68  政策60


(あれ、これって…)


 武力82、これは決して悪くない数字だった。ツバキが今まで解析アナリティクスで見てきた中で、80代の武力を持つ者はエレオノールとユンカースしかいない。


(なのに、なんで上手くいかないんだろう?)


 そう思いながら解析アナリティクス状態でエマを見ていると…さらに文字が浮かび上がってきた。


 指揮70 武力82 知謀68  政策60

 兵科適性:重装歩兵E 軽装歩兵D 騎馬隊C 弓隊A

 特質:短弓A


(これは…)


 『兵科適性』そして『特質』。これは、『家康の覇道』でお馴染みの能力値ステータスだった。それぞれ、Aが高くB、C、D…と行くにつれて適性が低いと見做される。


 適性の高い兵科を運用している時は、指揮と武力が最大限に発揮される。しかし適正の低い兵科の場合は…指揮と武力が下がってしまう。


 エマの騎馬隊適正はC。最悪ではないが、あまりいいとは言えない。それよりも弓隊の指揮を任せた方が相応しいようだ。それに加え『特質』では短弓Aとある。『特質』とは、それぞれの武将が持つ固有の性質だ。例えば奇襲が得意、槍の扱いが得意…など。それに照らし合わせて考えると、


「あの…僕の見た所、エマは騎馬隊の副長をするより、弓隊の指揮をした方がいいんじゃないかな」


「ほへ?」


「あと、弓は…短い弓の方がいいかも。その、あくまで僕の見た感じだけど…」


「弓…っすか…ううーん…」


「弓は嫌い?」


「いや、嫌いじゃないっす。自分、狩人だったじっちゃんに育てられたんで…弓は子供の頃から慣れ親しんで来ました。でも…」


 エマは、エレオノールをちらりと見た。


「自分、エレオノール隊長みたいな騎士になりたくて軍に入ったんです。だから…」


「…ありがとう、そう言ってくれるのは嬉しいよ」


 エレオノールがエマの肩に手を触れた。


「でも、人には得手不得手というものがある。私としては…君に弓兵としての才能があるのなら、そちらを伸ばして欲しい」


「エレオノールたいちょ…副司令…」


「無理にとは言わない。ただ、もし君に弓の才があるのならば、それは私にはない物。私が願っても手に入れられない物だ。私を慕ってくれるのならばそちらを伸ばす事で私の力になってはくれないだろうか」


「…!わ、分かったっす!」


 そう言うと、エマは「今から弓を取ってくるっす」と言って駆けていった。


 その後ろ姿を見送って、


「ありがとう、ツバキ」


 とエレオノールは言った。


「…君に言われるまで、あの子に弓の才能があるなど私は思いもしなかった。彼女が狩人の家系だと知っていたのにね。きちんと、あの子の事を見れていなかったんだね、私は」


「そんな…」


「私は、君の持つその目…人の力を見抜く能力を信じる。どうか、これからも力を貸して欲しい」


「もちろん…!」


 そう言って見つめ合った後…ツバキがおずおずと切り出した。


「それじゃあ、その…僕の方からもお願い、いいかな?」


「もちろん。何でも言ってくれ。そういえば眠れないと言っていたね。添い寝でもしようか?」


「い、い、いや…そ、それは…また、今度の機会に…」


 エレオノールに添い寝などしてもらったら、むしろ気持ちが昂って余計に眠れなくなってしまう。


「それよりも、僕に…剣を教えて欲しいんだ」


「剣を?」


「ああいや、もちろん僕に直接戦う才能が無いってのは分かってる。エレオノールみたいになれるなんて思ってない。けど…せめて、最低限自分の身だけは守れるようになりたいなって思って」


「ふむ…確かにそうだね。いつも私が守れるとは限らない。いいよ、教えよう」


 こうして、ツバキは1時間ほどエレオノールに剣の基本的な手解きを受けた。体を動かした事で程よく気持ちが静まり…ぐっすりと眠った後、翌日の朝を迎える事ができた。戦いの日の朝を。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エレオノールの主人公への盲目的な信頼は一体・・・。 突如現れた主人公のことを「神の使徒」的に捉えてると思った方がしっくりくるかも。 [一言] まぁまだ読み始めなので何もわからんですが。…
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