新戦力4
地下牢は、椿の予想よりも清潔な環境だった。地下にあるというのに湿った感じもない。
ハティの入っている牢の前では、4人の兵とひとりの女性が立っていた。4人の兵というのはリヒター配下の軽装歩兵だ。牢は煉瓦と鉄格子で覆われているため逃亡の心配はほぼないのだが、万一にでも逃げ出さないようにという警戒のためだ。
そしてひとりの女性というのは…、
「あ、ツバキさん」
女性が椿に気が付いた。
「こんにちは、ロランさん」
カトリーヌ・ロラン…エレオノール隊の救護分隊長だ。
「ロランさんもここに来てたんですね」
「はい、ここにいるのは女の子ですから…男の人にお世話されるのは嫌だろうと思って、私がお世話しに来てるんです。今回の戦いでは負傷した人も少なくて私も手が空いていますから。…負傷者のあまり出ない戦い方を選んでくださってありがとうございます」
そう言って微笑んだ。
「それよりも…ツバキさんこそ、どうしたんですか?」
「ちょっとこの子と話がしたくて来たんです。…いいですか?」
「もちろん構いませんよ。ただ…彼女がお話してくれるかは分かりません。私ともまともに話をしてくれなくて」
「…分かりました」
椿は鉄格子の前に立った。牢の奥にはベッドがあり、その上で毛布にくるまってうつ伏せになっているハティの姿が見える。
「こんにちは」
牢の中の少女に声をかける。だが、反応はない。
「ハティ…って名前だったよね。君と話がしたくて来たんだ」
少女は、僅かに顔を上げた。
「お前…なんでボクの名前を知っているんだ」
そう言って、睨むような目つきで椿を観察する。
「そうか…お前…酒場で会った事のある。そして、戦場でも何度もボクの邪魔をした奴だ」
「うん。君とは何度か会った事がある。今日は君に用事があって…」
「…お前のせいだ」
ハティは椿の言葉を遮った。
「お前がジャマしなかったら、あの女騎士はボクが仕留めていた!お前のせいで…」
そう言って、今にも飛び掛かりそうな表情で椿を睨みつけた。
「お前と話す事なんてない!さっさと帰れ!それか…さっさとボクを出せ!」
「残念だけど、君を出す事はできないんだ」
ハティは、今まで何度もエレオノールの命を狙った。しかも、司令官であるラジモフが戦いの停止を命じた後も、だ。そんな彼女を簡単に自由にさせる訳にはいかなかった。
「それよりも僕の話を…」
「うるさい!お前と話す事なんでない!それよりもさっさとボクを出せ!」




