新戦力
「はじめまして。北部要塞軍エレオノール千人隊所属のツバキ・ニイミです。良かったら話を聞かせてもらいたいんですけど…」
巨大要塞攻略より3日――椿は、巨大要塞軍兵士の暮らす兵舎、その中にある食堂にいた。そこで元│巨大要塞軍兵士たちに声をかけて回っている。その目的のひとつは、巨大要塞軍兵士の心情を確かめるためだ。
「困っている事や要望があれば聞かせてください。出来る事と出来ない事がありますけど、司令官代理に報告して可能な限り対応させてもらいますから」
「ふうん、困ってる事ねえ…」
三十代半ばの軍曹が答える。無精ひげの生えた人のよさそうな男性だ。
「今までの暮らしは保障されてるし、特に困ってる事はねえかな。…正直、奴隷扱いも覚悟してたからちょっと拍子抜けしてるくらいだ。おい、おめえはどうだ。何か困ってる事あるか?」
「ん?俺ですか?」
隣の兵が答える。兵士にしてはやや太り気味で、愛嬌のある青年だった。
「俺も特にないですね。ただ…北統の国王に忠誠心を抱いてる人なんかは、不満を持ってるみたいですけど」
「なんだ、おめえは国王様に忠誠心を抱いてねえみたいな言い方だな」
「正直…抱いてないですね。そういう軍曹殿は国王様に忠誠を誓ってんですか?」
「はは、んなもんある訳ねえだろ」
そう言って二人は笑いあった。これが巨大要塞住民の一般的な意見のようだ。巨大要塞の住人は、代々この土地で生まれ育ってきた者が殆どだ。彼ら一般人は、北統王国の王都に足を踏み入れた事などなければ国王の顔を見た事もない。忠誠心など抱きようもなかった。
「まあ、今のところは聖王国さんの統治には満足してるよ。他の兵もまあまあ納得してるんじゃねえか。国王に忠誠心を抱いてる人間ってのも少数派だろうしな」
「そうですか…ありがとうございます」
そう言って去る間際、椿は彼らに解析を行った。
軍曹の方は
指揮53 武力58 知謀51 政策30
兵の方は
指揮48 武力45 知謀49 政策42
という数値。兵士としては平均的な数値だった。食堂にいた他の兵たちにも視線を向けて解析を実行する。どの兵たちも数値に大きな差はない。
椿が巨大要塞軍兵たちに声をかけている第二の理由…それは、有能な人材を見つけ出し上層部に加えるためだった。




