統治3
城館内にある貴賓室――密貿易で富を築いたラジモフの趣味らしく、その内部は鮮やかな調度品で溢れかえっていた。純金の燭台、樹齢三百年越えの樫の木で作られた机、人の背丈ほどもある鷲の銅像、そして高名な画家に描かせたラジモフの肖像画。
「趣味が悪いわね」
エステルが呟いた。椿もその言葉には同意せざるを得なかった。調度品の高価さという点では以前訪れた聖都の王宮にも匹敵するものがあるが…上品さという点では大きく劣っていた。
「この調度品も売っぱらっちゃって、巨大要塞の公共事業の資金にしたいわね」
「それでしたら、私は巨大要塞南部の荒地の開墾を提案します」
とエレオノール。
「巨大要塞内では健康であるにも関わらず職がなく貧民に身を落としている者も数多くいる模様です。そういった方々に給金を支払い開墾に従事していただけば…失業者を減らし将来的には収穫量も増え、皆が豊かに暮らせるのではないかと」
「いい案ね。エレオノールちゃんには、巨大要塞の運営にも関わってもらおうかしら」
そんな会話をしていた所で、貴賓室の扉が開いた。扉から現れたのは、北部要塞司令官ラジモフと副司令官レホトネン…そして彼らを守るように立つ兵士たちだ。つい先日まで敵地だった場所に乗り込むという事で、兵たちに身を守らせているのだろう。
「ラ、ラグランジュ!」
エステルの顔を見るなり、ヒーマンは顔を赤くして怒鳴り声をあげた。
「こ、これはどういう了見だ!」
「…どういう了見、とは?」
エステルは首をかしげる。
「独断で巨大要塞に攻め入るとは…自分のやった事が分かっておるのか!?」
「もちろん分かっているつもりです。しかし、どうして司令官閣下がお怒りになっているのかは分かりませんね」
そう言って、困ったように眉根を寄せる。
「独断で攻めて失敗した、というのなら叱責を受けるのは分かります。ですが、巨大要塞を陥落させたのに叱責されるというのは…理解しかねますね」
「そ、それはだな…」
ヒーマンは口ごもった。彼が怒っている本当の理由…それは、巨大要塞が陥落したために密貿易が不可能になり自身の権益が奪われた事だ。しかし、それを口に出す事はできない。そんな彼に代わって、副司令官レホトネンが口を開いた。
「確かに、巨大要塞を落とした功績は称賛されるべきでございましょう。とはいえ、です。やはり独断専行が過ぎるのではないかと…」
「独断専行、ですか。そう仰られても…私は司令官代理として全権を与えられていました。その状況で巨大要塞を確実に落とせると判断し攻撃したのです。ヒーマン司令官に伝令を送って指示を仰いでいる暇はありませんでした」
「そ、そう仰られても…やはり、司令官はヒーマン閣下ですし、そもそも敵の攻撃から北部要塞を守るための出撃だったはずで…」
「そう、その通り!レホトネンの言う通りだ!元々は大型投石器から我々の要塞を守るための出撃だったと聞いている!その大型投石器にしても…巨大要塞が仕掛けたものではないという噂を聞いたぞ!どうなんだラグランジュ防衛部隊長!」
ヒーマンは机を叩き身を乗り出した。




