統治
エステルは迅速に兵を動かした。まずは巨大要塞兵の武器を集め、北部要塞軍によって管理させる。そして巨大要塞の中心である城館に入場した。続いて、中級以上の指揮官…さらには巨大要塞市街地からは商工業組合の親方連中まで城館の講堂に呼び寄せる。エステルは言った。
「北部要塞軍司令官代理、エステル・ラグランジュです。私は、可能な限りあなた方の権利を保障します。これは欺瞞でなければ偽善でもありません。巨大要塞の事は私などよりもあなた方の方がご存知のはず――つまり、私程度が出しゃばってあれこれと命令するより、あなた方にお任せした方がこの町の統治は上手くいくでしょう。…もっとも、全く口出しをしないという訳ではありません」
エステルは、講堂の脇に立つラジモフにちらりと視線を向ける。彼とはすでに契約を交わしている。すなわち、『指示された事以外は喋らないように。そうすれば身の安全は保障する。さらに、いずれ北統王国にも送り届ける』という内容だ。
「例えば、この城館の倉庫にはどなたかが密貿易で貯め込んだ金銀財宝が溢れています」
この『どなたか』とは言うまでもなくラジモフだ。彼は、さっと顔が青くなった。
「私はこの財宝を――巨大要塞のために使わせていただきます。具体的には、この度の戦いで負傷した巨大要塞兵士には慰労金を支給させていただきます。他にも、巨大要塞の経済活性のために財宝を使わせていただくつもりです。私たちに対する反感はあるでしょうが――私は富や権力を独占するつもりはありません。共に発展していきたい。そう心から思っています」




