攻城戦決着
エレオノールの全身は鎧に覆われている。胴も、胸も、頭も――そして、その腕も。彼女の腕は鋼鉄の籠手に覆われていた。籠手はその構造上、指を開く事が難しい。この時のエレオノールも拳を握っている状態だった。鋼鉄の拳。まさしく、鉄拳――それがハティの額に勢いよく命中したのだ。しかも、ハティ自身の飛び掛かる勢いも加わっている。図らずもカウンター・パンチが炸裂した結果となった。
ハティは並の少女ではない。エレオノール相手に互角以上の戦いを見せた実力者だ。だが、彼女の最大の武器は俊敏さであり…防御力という点では、一般人と大差ない。
「う…ぐ…」
エレオノールの鉄拳を食らった少女は、そのまま気を失い武器を取り落とし…エレオノールの愛馬にぐったりともたれかかった。
「ツバキ、怪我はないか!?」
「エレナ、大丈夫!?」
二人は同時に声を発した。そして互いに無傷である事を確認し安堵して…気絶した少女に視線を向けた。
「手強い相手だったが…ひとまず、この少女は信頼できる兵に預けておこう」
「うん、そうだね。今は…」
椿とエレオノールは巨大要塞軍へと視線を移した。趨勢はほぼ決しているが、ハティのように勝敗など関係なく最後まで抗戦する者がいるかもしれない。もしそういった敵が出てくれば、早期に鎮圧しなければならない――最後の詰めだ。
「ぐう…う、ううっ…」
エッカルトは苦悶の表情を浮かべる。もはや逆転の手立てはがない事は彼女も承知していた。周囲の兵は、完全に戦意を失っている。司令官ラジモフが戦うなと命令しているのだからそれも当然だろう。
だが――エッカルトにしてみれば、降伏という選択肢は受け入れ難かった。戦略を立て、自ら陣頭にも立ち。勝利まであと一歩という所までこぎつけたのだ。しかしそれを覆された。チェスで言うならば、チェックメイトに持ち込んだと思ったらチェス盤をひっくり返されたようなものだ。
(降伏など…できるか…!)
しかし、抗戦を叫んだところで従う者はいったい何人いるものか――。
エッカルトは、北部要塞軍を睨みつけながら口を開いた。
「…ったいだ。――撤退だ!北統王国の領土へと下がり再起を図る!志ある者はあたしに続け!」
さらに、軍楽隊に撤退の銅鑼を打ち鳴らさせた。
「東門だ!東門から撤退する!」
そう叫んで、見張り兵の馬の手綱をぐいと掴んだ。
「ほら、あんたも逃げる!」
「え、え、お、俺も…?」
「当然でしょう!」
エッカルトは西門へと駆けていく。多くの巨大要塞兵はそれをぽかんと見送っているだけだった。しかし、エッカルトの後を付いていく指揮官、兵もいた。その数…千名程度。
「ラグランジュ司令官代理!東門から逃げていく一団があります!」
「追わなくていいわ」
エステルは兵からの報告に答える。
「逃げている敵は私たち北部要塞に従う事を良しとしない兵たちでしょう。追えばきっと徹底的に抗戦してくるわ。そうなると、戦意を失っている巨大要塞兵の中にも心変わりする者が出てくるかもしれない。むしろ、こちらに敵愾心を持つ兵が去ってくれてありがたいくらいよ」
エステル・ラグランジュの思考はすでに一歩先へと進んでいた。すなわち、巨大要塞の統治だ。
「降伏した巨大要塞兵には丁寧に対応してちょうだい。決して汚い言葉なんて浴びせないようにね」




