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降伏勧告

「く、繰り返す!我が軍は北部要塞ノルドと講和した!即刻武器を捨てよ!巨大要塞フルングニル北部要塞ノルド軍に明け渡す!」


 ラジモフは城壁の上で声をあげる。巨大要塞フルングニル軍兵士たちは、呆然とした表情でラジモフを見上げる。ラジモフは講和という言葉を使ってこそいるが、武器を捨て要塞を明け渡すのであればそれは実質的な降伏と言えた。


「えーと、続けて言う言葉は…『武器を捨て投降すれば、北部要塞ノルド軍は危害を加えない。財産を奪うような事もしない』」


 ラジモフの後方で、彼に向かってリヒターが囁いた。その言葉を受け、ラジモフは口を開く。


「ぶ、武器を捨て投降すれば、北部要塞ノルドは危害を加えない。財産を奪いような事もしない」


「さらに続けて…『北部要塞ノルド軍には援軍として、聖騎士パラディンと彼らが率いる兵20万が向かっている』」


「ノ、北部要塞ノルド軍には援軍として…パ、聖騎士パラディンと彼らが率いる兵20万が向かっている!」


「『これ以上戦いを続けても益はないと判断し、私は北部要塞ノルドとの講和に踏み切った。今なら極めて有利な条件での講和が可能だ』」


「これ以上戦いを続けても益はないと判断し、私は北部要塞ノルドとの講和に踏み切った。今なら極めて有利な条件での講和が可能だ…!」


 当然、聖騎士パラディン率いる援軍というのは真っ赤な嘘だ。この嘘を北部要塞ノルドの人間が直接口にしたとしても巨大要塞フルングニル兵は信用しないだろう。だが、それが巨大要塞フルングニル司令官ラジモフの口から出たとなれば話は変わってくる。


「お、おい、よく聞こえなかったんだが司令官はなんて言ったんだ…?」

聖騎士パラディンが攻めてくるから降伏しろって」

「パ、聖騎士パラディン?マジかよ…戦いたくねえ…」


 兵たちの間で、厭戦気分が広まっていく。巨大要塞フルングニル兵のひとりが手に持った剣を鞘に納め…兜を抜いだ。これ以上戦うつもりはないという意思表示だ。それにつられるように、他の兵も続々と続く。武器を捨て、地面にへたり込む者もいた。


「ま、待て!聖騎士パラディンが来るなんてのは嘘だ!」


 エッカルトが叫んだ。彼女は知っている…ラジモフが逃げ出した事を。そして逃げ出したラジモフがあそこにいるという事は、北部要塞ノルド軍に捕らえられたのだという事も想像がついた。


「武器を取れ!城壁の外へ北部要塞ノルド兵を押し出してしまえば…勝てる!」


「う、嘘って…なんでラジモフ司令官がそんな嘘をついてるんですか?」


 兵士のひとりが、エッカルトに問いかけた。もっともな疑問だろう。


「それは司令官が逃げ――」


 と、経緯を説明しかけたと事で、エッカルは、口を閉じた。


(司令官が逃げ出したなんて…言える訳がない)


 もし、司令官であるラジモフが兵たちを捨てて逃げ出した、という事が巨大要塞フルングニル全体に伝わればどうなるか。兵たちはこう考えるだろう。


 ――司令官が逃げ出すという事は、巨大要塞フルングニルはやっぱり負けるんだ。


 ――司令官が逃げ出したのに何で戦わないといけないんだ。馬鹿らしい。


 となれば、結局…厭戦気分が広がり、兵士たちは北部要塞ノルドへと降伏する。結局、事実を伝えた所で結果は変わりはしないのだ。


「わ、我々からも諸君らに降伏を勧める!」


 城壁を見上げれば、いつの間にか人影は増えていた。新たに声をあげているのは…ラジモフと共に捕らえられた貴族たちだ。


北部要塞ノルド軍は約束した。今降伏すれば、捕虜としての扱いはしない。諸君らの自由を奪いはしないと…!」


 彼らの言葉を受け、兵たちはほぼ完全に戦意を失った。彼らの多くは自らの望んで戦っていた訳ではない。上官に戦えと言われたから戦っていたに過ぎないのだ。その上官が戦うなと言えば武器を捨てる…当然といえば当然の成り行きだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] …エッカルト…諦めろよ…チェックメイトかけられた時点で負けだよ…いくらイモ野郎が戦犯でも、ここでイモ野郎を見捨てるのは、イモ野郎を司令官に決めた北の国を裏切る行為だ!…貴族達もいるし、…
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