形勢逆転3
面頬…これは簡単に言えば、騎士の顔を守るための鉄の面だ。基本的に兜に付属しており、それを下ろす事で顔の前面を守る事ができる。兜と面頬を繋げている鋲が壊されたという事は、兜に隙間が出来たという事だ。
面頬と兜に限らず、騎士の着る板金鎧は鉄の板同士を鋲によって繋ぎ止める構造になっている。もしもハティが意図的に鋲を狙ったのだとすれば…彼女は、エレオノールの鎧を破壊する作戦に出たという事だ。鎧が破壊されてしまえば、甲冑の隙間を狙うまでもなくエレオノールの肉体を傷つける事ができる。
「エレナ、ひとまずこの場を離れよう」
「ああ…ひとまずは移動して暗殺者を引き離そう。騎馬隊、出発――」
そう号令を下そうとしたその時…エレオノールの周囲を固める騎馬隊、その陰から疾風の如き勢いで暗殺者が飛び出した。敵兵の中に隠れたハティは、その後素早く騎馬隊の中に紛れ込んでいたのだ。
「いつの間に――」
エレオノールは素早く身構える。ハティは、エレオノールの攻撃をかわしつつまたもや兜に攻撃を加える。今度もまた、鋲部分を狙った一撃。これによりエレオノールの兜と面頬は繋がりを断たれ、その顔が完全に剥き出しとなった。
「…」
しかしハティはそれ以上追撃を行おうとはせず、すぐさま身を隠す。小柄かつ俊敏な彼女にのみ可能な見事という他ないヒット&ウェイだった。
「エレナ!」
「私は大丈夫だ。――騎馬隊、周囲を確認してくれ」
エレオノールと椿、そして騎馬隊は周囲に注意を配る。今は騎馬隊の周囲に暗殺者の姿は見えない。しかし、いつまた襲ってくるとも知れない状況だった。
「…ひとまず今は大丈夫なようだ。とにかく移動を――」
今度こそ移動を――と、走り出そうとする。が、またもやそれは阻止された。
「い、行け!敵騎馬隊を…攻めろぉ!」
エレオノール率いる騎馬隊の足が止まったのを見てとったスタンヴィルが、自ら兵を率い攻撃を仕掛けてきたからだ。




