右翼の攻防2
ボゥの指揮する重装歩兵隊をエマが援護する…この連携は、想定以上に上手く機能していた。ボゥの指揮能力もさることながら、それ以上にエマの援護能力がこの戦場では遺憾なく発揮されている。元々、エレオノールの下で副長としての能力を鍛え上げられたエマは、指揮官の意図を素早く読み取り援護する事を得意としていた。
エマは200名を率いる副長兼弓兵部隊長へと昇任した事で、主力の弱点を補う援護部隊指揮官としての才能が花開いたのだった。
竜が圧倒的な存在感を放つ北部要塞軍左翼、エレオノールが敵の最高指揮官を討った中央に比べれば派手さはないが、戦力という点では右翼も決して劣ってはいなかった。その証拠に、レプキナ将軍が健在だった時に派遣された二千人隊隊長、シーカもボゥとエマの連携の前に退けられている。
「重装歩兵隊、このまま前進」
号令を下しながら、ボゥは後方を振り返る。重装歩兵隊のすぐ後ろには、北部要塞軍。そしてエマ率いる弓兵隊も物陰に身を隠しながら前進しているのが見える。
(おそらく敵は、竜のいる左翼と、最高指揮官を失った中央に対し重点的に援軍を送るはず…)
ボゥはそう考える。
であるならば、今が右翼の攻め時だった。敵前線を押しに押し、中央の援護を行う――そう思ったその時、敵軍に動きがあった。どうやら援軍が到着したようだ。
(しかし、巨大要塞に優秀な指揮官が残っているとは思えませんな)
元々、巨大要塞は平和に慣れ切っておりまともな指揮官は限られていた(もっとも、それは北部要塞軍も同様だが)。今さらになって優秀な指揮官の率いる援軍が到着する可能性は低い。もちろん、だからと言って侮る事はできない。
「敵に援軍が到着いたしました!注意を払ってください!」
声をあげ、重装歩兵隊、そして後方にいる北部要塞軍やエマ率いる弓兵隊に注意を促す。
(新手は重装歩兵…その数、三千名ほどでありますか)
数としては、ボゥ率いる重装歩兵隊とエマの弓兵隊よりはるかに多い。しかし、この二部隊が独力で戦う訳ではない。二部隊が中心となって敵の攻勢を押し返しつつ、数千名で構成される北部要塞軍右翼と連携して戦う。そうすれば、兵力差はさほどない。
敵との距離が縮まる。ボゥ率いる重装歩兵隊と、敵軍が接触する…その直前、敵の中から馬上の指揮官が飛び出した。自ら先陣を切るタイプの勇猛な指揮官らしい。
敵軍指揮官の動きは疾風の如き速さだった。馬上槍を突き出し、ボゥ配下の重装歩兵を瞬く間に三人、なぎ倒した。
(この敵…できる)
ボゥはすぐさまそう判断した。このまま敵指揮官を暴れさせていたら敵軍に勢いが生じてしまう。
「そこまでであります!」
声をあげ、敵軍指揮官に近付くと素早く羽根槍を突き出す。敵指揮官の胸甲に当たり、落馬させる…と思いきや、敵は馬上槍の根本でボゥの攻撃を受け止めた。
「なに!?」
驚愕の声をあげるボゥ。大して、敵軍指揮官は面頬の下で微笑んだ。
「今まで好き勝手してくれたわね!」
馬上槍を振り上げ、羽根槍をはじき返す。
「さあ、これからはあたし達が攻めさせてもらうわよ。巨大要塞軍!あたしに続け!」
敵軍指揮官――エッカルト司令官代理は、声を張り上げた。彼女の真の狙いは、竜のいる左翼でもエレオノールのいる中央でもなく、ボゥとエマが中心となった北部要塞軍右翼。そこを自らの手で叩き潰す目論見だった。




