中央の攻防
北部要塞軍中央ではエレオノール率いる騎馬隊が中心となって巨大要塞軍を攻め立てていた。
勢いは完全に北部要塞軍にあったが、エレオノールや椿に油断はない。先程エステスから伝えられた言葉は忘れていなかった。
「来た…!」
敵陣に注意を向けていた椿は、中央にも敵援軍が到着した事を感じ取った。
(敵の数は、数千人程度…士気は――)
「え?」
解析で敵の士気を確認して…驚いた。敵の士気が『あまり高くなかった』からだ。
(てっきり精鋭が来るものだと思っていたけど…)
兵の士気が高くないという事は、指揮官があまり有能ではない、もしくは戦いに乗り気ではないという事実の表れだろう。
「エレナ。直接指揮官を見た訳じゃないから確実な事は言えないけど…敵の新しい指揮官はそこまで優秀な人じゃないと思う」
「そうか…という事は、潜入捜査で椿が見たという副司令官が率いている訳ではなさそうだね」
「うん、多分だけど」
椿は、新しい指揮官が現れるのだとしたらエッカルトだろうと予想していた。しかし、エッカルトではなく実力の不足した指揮官が率いているのであれば…好機だった。
「では、この機に攻める事にしよう。…もっとも、敵が何か新しい手を打ってくる可能性もある。ツバキ、引き続き敵の動きに注意してもらえるかい」
「うん。もちろん」
エレオノールは、騎馬隊に攻撃の命令を下した。そして彼女自身が先陣を切って敵へと突入する。椿はエレオノールのすぐ後ろで騎馬隊のサポートを行う。敵の士気、そして敵指揮官の能力値が判断できる椿がいれば、エレオノールの能力はいかんなく発揮する事ができた。
エレオノールが剣を振るえば倒せない敵はなく――彼女の率いる騎馬隊を阻める者もいなかった。もっとも、騎馬隊のみで突出しても意味はない。歩兵と連携を取るため、敵陣を突き崩しつつ味方の陣へと戻り…という戦いを繰り返す。歩兵隊もまた、騎馬隊の勢いに士気が高まり巨大要塞軍をますます圧倒していく。
(よし、いい調子だ…!)
しかし同時に、不安に思わなくもなかった。あまりにも調子が良すぎる――敵は何か仕掛けてくるのでは…?椿がそう思った矢先――騎馬隊の蹴散らした敵兵の影から、ひとつの小柄な影が飛び出した。




