中央攻撃3
レプキナの行動は、道徳的にはともかく――軍事的には決して間違いではなかった。左翼に援軍を向かわせた事、敵騎兵の接近を感じ取りすぐさま逃げた事、そして指揮官を囮に使った事。その全てが理にかなっている。
しかし、彼にはふたつの誤算があった。
ひとつは騎兵指揮官として最高クラスの能力を持つエレオノールの存在。
もうひとつは解析を持つ椿の存在。このどちらが欠けていても、レプキナの安全を脅かす事はできなかっただろう。しかし、彼にとっては不幸な事に敵軍にはそのふたつが揃っていた。
長剣を構えたエレオノールが、騎馬隊を引き連れレプキナへと迫る。必死の形相で逃げるレプキナだったが、彼我の距離はみるみる内に縮まっていく。
「最高指揮官殿とお見受けする!」
エレオノールが叫んだ。
「ち、ち、違う!わ、私は…最高指揮官などでは…!」
レプキナは言い逃れを試みるが、ここまで来てそのようなものに騙されるようなエレオノールではない。
「お覚悟を!」
「や、やめろ!来るな!…だ、誰か!誰か私を守れ!私の盾となれ!」
必死の叫びも虚しく、彼を守る者はいなかった。奔流の如き勢いで疾走する騎馬隊の間に誰も割って入る事ができないのだ。
レプキナは腰の鋭剣を抜いた。こうなっては他に何も出来る事はない。一か八かエレオノールと刃を交え討ち果たす他には。馬を止め、エレオノールへと向き合う。そして鋭剣を構えた。
互いの馬と馬が交錯する。
エレオノールとすれ違うその瞬間、レプキナは鋭剣を振り下ろす。しかし、その切先はエレオノールの体に触れる事はなかった。ただ、空を切ったのみ。
「がっ…!」
対して、レプキナの鎧は長剣によって切り裂かれていた。無論、鎧のみならずその中の肉体も。
尚も馬は乗り手を乗せて走り続け、しばらくするとレプキナは馬から崩れ落ちた。
走り抜けたエレオノールはその様子を確認し、高らかに声を張り上げる。
「最高指揮官は討ち取った!これにて我々は作戦目標を達成した。騎馬隊、自陣へと転進!」
素早く馬首をめぐらし、騎馬隊を引き連れ自陣へと戻る。その後を追う者はいなかった。巨大要塞軍は最高指揮官を討ち取られた動揺のため、追撃どころではなくなっていたためだ。




