左翼攻撃
エレオノール千人隊は、北部要塞軍の中央で戦いを繰り広げていた。エレオノール隊は、乱戦の最中にあって全く動揺を見せていない。兵たちは実戦経験が豊富な上に、それを束ねる隊長たち…ボゥ、エマ、そしてエレオノールの能力は両軍の指揮官の中でも突出している。しかし、それにも関わらずエレオノール隊は目立った戦果を挙げる事ができていなかった。いや――正確には、わざと積極的に戦いに参加していなかった。その理由は、下手に目立って警戒されるのを防ぐためだ。
「エレナ!」
隊の先頭で戦うエレオノールの元へ、馬上の椿が駆け寄った。
「ツバキ、戦況は?」
「うん、把握できたよ」
椿は頷いた。彼は今まで、戦闘には参加せず…第一城壁の上に登り、俯瞰して戦場を見下ろしていた。すなわち解析を行っていたのだ。
「敵軍の中央、やや前方辺りの士気が高い。多分そこに指揮官がいるんだと思う。けど、真正面からぶつかって崩すのは…ちょっと厳しいと思う」
エレオノール千人隊とは言うものの、現在リヒターとホフマンの率いる部隊は抜けて実数は六百名ほど。さすがにこの数で正面からぶつかるのは得策とは言えなかった。
「でも、敵の士気にはかなりバラつきがあった。多分、急に巨大要塞を襲われて恐怖している兵が一定数いるんだと思う」
「なるほど…それなら、まずは士気の低い所を叩くべきだろうね。その後に――」
「うん、そうだね。僕もそれを考えてた。ちなみに、特に士気が低いのは敵軍の左翼だよ」
ツバキとエレオノールは、瞳で互いの意思を伝えあった。
「ボゥ、エマ!歩兵隊と弓兵隊を率いて、敵の左翼を攻撃してくれ」
エレオノールは号令を下した。




