巨大要塞の選択
轟音が鳴り響く。
「ぐ…!」
ラジモフ、エッカルト、そして兵たちは思わず声を上げる。城壁を見下ろせば、巨大な杭が城壁に突き刺さっている。その先端は城壁の半ばにまで到達しているだろうか。さすがに一度で城壁を破れはしなかったようだが…これを二度、三度と続けられれば間違いなく城壁は崩壊する。
「さ、さっさと竜を倒すのだ!」
ラジモフが顔面を朱に染めて叫ぶ。
「し、しかし…竜相手に矢はほとんど効き目がありません…!」
兵のひとりが震えながら答えた。
「それなら、岩でもなんでも落として竜を押しつぶせばいいだろう!」
「あ、あれほどの大きさの竜を押しつぶせる岩など…この城壁上に用意していません」
そもそも、巨大要塞側は圧倒的な準備不足だった。エッカルトの指示でなんとか迎撃態勢だけは整えたものの、城壁の上から落とすための岩などは用意していなかった。
「それなら…煉瓦でも石でもなんでもいい!城壁の上から落として竜を食い止めろ!」
ひたすらに喚き散らすラジモフと違い、エッカルトはすでに冷静さを取り戻しつつあった。
「ラジモフ司令官。あたしから進言があります」
「お、おお…なんだ、エッカルト副司令官。竜を撃退するいい方法でも思いついたのかね!?」
「いえ…あたしたちは、この城壁を放棄して後退すべきではないかと考えています」
「な、何!?」
驚きのあまり、ラジモフの顔色は朱色を通し越し…紫に近い色になった。
「ど、どういう意味だ副司令官!竜を食い止める努力をせず逃げろと言うのか!」
「はい、その通りです。もっとも、逃げるっつってもひとつ内側の城壁にまで撤退するだけです。…っ!」
エッカルトがそう進言する間に、竜は二度目の突撃を行った。城壁は大きくえぐれ、その下部はがらがらと音を立て崩れ始める。もちろん、巨大要塞兵たちはそれを止めようと矢を射掛けるも、竜には通じない。
「…司令官。この場で踏ん張っていても、竜を止めるのは不可能です。それよりはいったん後ろの城壁に引いて、態勢を立て直しましょう。さらに、城壁内側に待機している歩兵も出撃させるんです。ここで踏ん張っていても…最悪の事態になりかねない」
「最悪の事態だと?」
「はい。城壁を突破した敵が、城壁内側の階段を登り…あたしたちに直接攻撃を仕掛けてくる可能性があります。そうなったら…最悪、司令官もあたしも討ち死にです」
「ぐっ…!」
死――その言葉に、ラジモフは息を詰まらせた。確かに、それは彼にとって最悪の可能性だった。それよりは、この城壁を放棄して後方に下がったした方がいい。
「…よ、ようし、分かった、エッカルト副司令官。き、君の進言を採用し、後退する事にしよう」




