秘密兵器
北部要塞兵たちは、一定の速度で巨大要塞へと近付いていく。しかし、途中でその速度が鈍った。上り坂に差し掛かったからだ。巨大要塞は、小高い台地の上に建設されていた。台地を取り囲む急斜面の高さは数m程度。梯子を架ければ人が上れない程の険しさではないが、移動速度は極端に落ちる。そこに、巨大要塞城壁上から放たれた矢が飛来した。しかし兵は盾をかざして矢を受け止める。そうやって、じりじりと巨大要塞との距離を詰めていった。
まず100名ほどの一団が、巨大要塞城壁へと到達する。
「し、司令官殿!敵兵が城壁に!」
「なにい!?す、すぐさま迎撃せよ!」
兵からの報告を聞いたラジモフは、慌てて部下に命令を発した。しかし、エッカルトがそれを制する。
「司令官、少し待ってください。…様子を見てみましょう」
「なにい!?様子見だと?」
「はい、もしピンチになればあたし自身が出撃してでもなんとかします。ひとまずは…敵兵の動きを観察させてください」
そう言って、城壁の下を覗き込み北部要塞兵の様子を観察する。
城壁に達した北部要塞兵たちは、運んできた梯子を城壁に架けた。すぐさまそれに登り始める…が、
「梯子を押せ」
エッカルトの命令を受け、城壁上の兵たちが梯子を押した。すると、梯子は簡単に傾き…北部要塞兵もろとも、横倒しになった。他の場所でも、城壁に到達した北部要塞兵が梯子をかける。しかし、これも難なく倒されてしまう。どの場所も、その繰り返しだった。
「ははは、馬鹿め!」
ラジモフが哄笑する。つい先ほどまでの焦りようが嘘のようだ。
盾で矢を受け止めているため、北部要塞兵に負傷者は少ない。しかし、いくら梯子を架けようと城壁上の兵に簡単に外されてしまう。これでは、何時間かけようと城壁を超える事など不可能だった。
(まさか…北部要塞の奴ら、この程度の策で巨大要塞を攻め落とすつもりなのか…?)
エッカルトは、ラジモフのように北部要塞兵を笑いはしなかった。むしろ…呆れてしまった。
要塞攻めには、いくつか定石がある。例えば、投石器、破城槌などの攻城兵器を使って城壁や城門を壊す方法。城壁の下に坑道を掘り城壁の内側に侵入する方法。数ヵ月単位で要塞を取り囲み続け、敵の食料が尽きるまで包囲し続ける方法。
だが、北部要塞兵の作戦はそのどれでもなかった。ただ城壁に梯子を架け、そこから要塞内に侵入しようと試みている。
確かに、それも城攻めのひとつの手段ではある。しかし、それが有効なのは要塞側の兵士が少ない場合だ。例えば、要塞側の兵が百人、攻め手側が千人だったとする。そうであれば、四方八方から梯子を架け兵を送り込み続ければ要塞側は対処しきれなくなってしまう。
しかし、現状は違う。むしろ、巨大要塞側の兵が圧倒的に多い状態だ。いくらでも対処は可能だった。
「北部要塞兵の奴ら、こんな単純な方法で巨大要塞を落とせると思っていたとはな。ぐははは!阿呆め!」
ラジモフの下品な笑い声はますます大きくなる。エッカルトは彼のような下品な笑い声こそあげないものの…ラジモフの言葉には同意せずにはいられなかった。
(確かにこれは…阿呆としか言いようのない作戦だね)
今は、やみくもに矢を射かけて敵を倒そうとしなくとも良い。むしろ、このまま数時間ほど攻めさせて…敵が疲弊した所で、城門から騎馬部隊を出撃、敵を蹴散らせてしまおう。
エッカルトがそう考えた時だった。
「ふ、副司令官…あ、あれは何ですか?」
近くにいた兵が、前方を指さした。この兵士は最初に聖王国軍の接近に気が付いた見張りの兵だった。目のいい人物らしい。
「ん?あれって何さ」
エッカルトは、兵の指差す方へ視線を向けた。
『それ』が視界に入った瞬間…彼女は、『それ』が何だか理解できなかった。いや、脳が理解を拒んでいたのかもしれない。しかし、瞳を擦り…改めてその存在を凝視する。『それ』の数は、5体。その5体が、巨大要塞目掛け猛然と突き進んで来る。
「嘘だろう…?そんな、まさか…」
帝国で、『それ』を使った実験部隊が運用されている…という話は聞いていた。しかし、聖王国軍が『それ』を運用しているなど、今まで聞いた事がない。
「竜…!」
まるでエッカルトの呟きに答えるかのように、5頭の竜は咆哮を上げた。




