攻城戦開始
太陽が、東の空へと顔を覗かせた。闇に包まれていた大地が照らされる。と同時に、城壁の上で待機していた兵たちは敵兵の姿を目の当たりにする事になった。巨大要塞の南から西にかけて布陣する聖王国兵の姿を――。
「て、敵兵の数…約2万、いや、に、2万5千名…!」
兵のひとりが叫んだ。それを聞いて、 巨大要塞司令官、ラジモフの顔が歪む。彼は自室で休んでいたのだが、敵襲の報を聞いて飛び起きてきたのだ。
「2万5千だと…!北部要塞の兵の大半ではないか」
(くそう、ヒーマンめ…休戦の密約を破りおったな)
内心で、北部要塞司令官であるヒーマンに憎悪を燃やす。もっとも、北部要塞との密約は一部の人間しか知らない秘密事項なので、それを口にする事はできなかったが。
「ラジモフ司令官、どうか開戦の号令を」
傍らのエッカルトが促した。聖王国兵の来襲に気付いたのも、迎撃のための用意を迅速に整えたのも彼女自身なのだがあくまで巨大要塞の司令官はラジモフだった。彼の号令がなければ戦いを始める事はできない。
「う、うむ、そうだな…」
ラジモフはごほん、と咳払いした。迫りくる聖王国兵を睨みつけながら大きく息を吸い込む。
「これより戦闘を開始する!敵兵が射程内に入ったら、遠慮なく矢を撃ち込めい!難攻不落たる巨大要塞の恐ろしさを見せてやれ!」
エステル率いる北部要塞兵たちは、巨大要塞まで数100mの位置にまで迫っていた。あと少し進めば、巨大要塞から矢が届く距離だ。そこで一旦立ち止まり、エステルは兵たちを見回す。
「それでは、先ほど伝えた作戦通りよろしくお願いします」
落ち着いた口調だった。とてもこれから難攻不落の要塞に攻め込む指揮官とは思えない。そしてその落ち着きぶりを見ていると、
(本当に、巨大要塞を落とせるのではないか…?)
兵たちはそんな風に思えてくるのだった。
「ああ、それと…みなさん、あまり無理をせずに身の安全を考えて行動してください。なんて、そんな事言うなら戦わせるなって話かもしれないけど…とにかく、無理をしないように。それじゃあ――攻撃開始」
そう言うと同時に、彼女の傍にいた兵が指揮官旗を揚げた。戦闘開始の合図だ。兵たちが、次々に巨大要塞に迫る。
巨大要塞攻略戦が開始された。
聖王国軍・北部要塞兵2万5千名。迎え撃つは北統王国軍・巨大要塞兵5万名。




