攻略作戦
指揮官たちがエステルの周囲に集まった。エレオノール、エマといった面々を覗けば、皆の表情には不安が色濃い。
「あまり時間もないので、単刀直入に申し上げます。――我々は、今から巨大要塞の攻略に取り掛かります」
「「なっ…!」」
指揮官たちの間に動揺が走った。呆然とした様子で口をぽかんと開ける者、恐怖に顔を引きつかせるもの…反応は様々だ。しかし、そんな彼らの反応を無視してエステルは話を続ける。
「巨大要塞の南面から西面にかけて部隊を配置します。それぞれの持ち場については…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…!」
補給部隊長がエステルの話を遮った。
「巨大要塞を攻める!?そ、そ、そんな事、事前に聞いていないぞ!?」
「ええ、ですから今言いました」
「そういう事じゃあない!」
補給部隊長は地団太を踏む。
「我々は、敵の大型投石器を破壊するために出撃したはずだ!それが何故、要塞攻めなどという話になる!?ここは撤退すべきではないか!?」
「そうはいきません。敵に攻撃されて、そのままやり返しもせず退却するなど…聖王国の威信に関わります」
「い、威信って…」
威信がどうこうなど、エステルに最も似合わない言葉だった。しかし、その言葉を持ち出されると反論も難しい。
「確かに…北統王国に舐められる訳にはいかないだろうが…」
「ええ、その通り。舐められたままでは終われません」
「し、しかし、そのために危険を犯すのか…?もし失敗したら多大な犠牲が…」
「もしも巨大要塞攻略に失敗したならば、私の首を差し出します」
エステルは、指揮官たちを見まわして言い放った。
「まあ、私の首になんてどれほどの価値があるかは分かりませんが…少なくとも、作戦が失敗した場合私は生きながらえるつもりはありません。この言葉、ここにいる皆さんが証人になってください」
「むう…」
そうまで言われてしまえば、指揮官の誰も真っ向から反対する事はできなかった。




