進撃
「ラ、ラグランジュ防衛部隊長!」
兵たちの先頭にいる男から声が上がった。エステルと同じ、北部要塞部隊長のひとり…補給部隊長である男だ。
「全軍で出撃とは…正気なのか?そもそも、レホトネン副司令官はどこに?先ほどまで副司令官室で共に話をしていたと聞いたぞ!?」
「まず、全軍で出撃する理由について…敵は、おそらく大型投石器の周囲を守備部隊で固めているはずです。それを打ち破るためには、全力で当たる必要があります。ああ、全軍とは言っても、最低限の守備要因、市街地の治安維持に必要な人員は残しておきますからご安心を」
「むう…」
正直、補給部隊長としては出撃には反対だった。例え出撃するとしても、自分だけは出たくない…それが本音だった。しかし、エステルの言葉に理があるように思えた。少人数で出撃して、兵を損耗し大型投石器も潰せない…というのは、最悪の結果であるからだ。
「そして、副司令官ですが…司令官殿をお迎えに上がるため、要塞を離れました」
「なっ…」
補給部隊長のみならず、多くの兵から驚きの声が漏れた。彼らの本音としては、こうだろう…、
(副司令官でありながら、こんな時に持ち場を離れたのか!?)
兵たちの心中に、怒りと落胆、二つの感情が沸き上がる。
「そして――北部要塞の指揮権は、私に委譲されました」
そう言って、副指令のサインが入った書類を取り出した。と同時に、ボゥが壇上に上がり指揮官旗を掲げる。
「僭越ながら、この私…エステル・ラグランジュが司令官代理を務めさせていただきます。そして、司令官代理としての権限で命令します」
エステルは、兵たちをゆっくりと見まわした。やはり、皆の顔には不安が満ちている。とても戦意が高いとは思えなかった。しかし、彼らを用いて作戦を遂行させなければ。
「――準備が出来次第、北部要塞軍は出撃します。総員、速やかな準備を」




