集合
「ラグランジュ防衛部隊長殿」
副司令官室から出て来たエステルに駆け寄ったのは、ボゥだ。
「兵達は広場に集まっております。現在、5割程。残りの兵も予備集めていますので、もうしばらくすれば集合が完了いたします」
「了解したわ」
「集まった兵達は、アンスバッハ千人隊隊長が取りまとめています」
「予定通りね。…こちらも予定通りよ」
「という事は――」
「ええ、司令官代理として北部要塞全軍の指揮権を掌握したわ」
エステルが広場に到着した頃には、すでに北部要塞兵のほとんどが集合していた。
今ここにいない者は、城壁守備、市街地の治安維持など任務に就いている者たちだ。つまり、動かせる兵は全て集まっている事になる。
「エレオノールちゃん、兵達を取りまとめてくれてありがとう」
そう言って、エステルはエレオノールの肩をぽんと叩いた。その横にいる椿にも微笑む。
「…いよいよですね」
椿は、やや緊張した面持ちでエステルに声をかけた。
「ええ、そうね」
エステルは微笑む。そして、兵達の正面に設けられた壇上に上がった。横で焚かれている篝火が彼女の体を照らす。
壇上からは、兵達の様子がよく見えた。みな、不安そうな顔をしている。落ち着いているのは、事前に事を知らされていた数名のみだ。
「端的に状況を説明するわ。今、この要塞は巨大要塞から出撃した兵に攻撃されています」
エステルが声を張り上げると、兵隊の間に動揺が広がった。どこかから攻撃を受けているのは予期していたが、実際にその事実を口に出されると、改めて衝撃を受けたようだ。
「敵は大型投石器を使っているわ。それを破壊するために、私たちは出撃する必要がある――今ここに集まっている全軍でね」
兵たちがどよめいた。要塞防衛のために何らかの行動を起こす事は予想していたが…まさか、全軍での出撃とは予想外だったようだ。




