司令官代理
「ラ、ラグランジュ防衛部隊長、ですが…!」
「静まりなさい、と言ったはずよ」
エステルがそう言い放つと、兵たちは押し黙った。普段は気楽な雰囲気でヘラヘラと笑ってばかりのエステルが、有無を言わさぬ口調で眼鏡の下の瞳を鋭く光らせている。その変貌ぶりに、兵たちは思わず臆した。
「10分ほど、副司令官とふたりきりにさせてちょうだい。作戦を練るわ。その間に、あなた達は兵達を起こして広場に集めて」
「は、はい、分かりました!」
エステルに命令された兵は、慌てて駆け出そうとする。だが、エステルが彼らを呼び止めた。
「――ちょっと待って」
「…え?は、はい!何でしょうか?」
「あなたたち、一度深呼吸して。はい、息を吸って…吐いて。うん、そうよ」
エステルは、にっこりと微笑む。
「慌てた様子でみんなを起こしたら、混乱が起きてしまうわ。今の状況は楽観視できないけれど、対応が不可能な訳じゃない。急ぐよりも冷静に行動する方が大事よ」
「了解しました、防衛部隊長」
兵たちは、しっかりとした足取りで駆け出していった。
「さて、それでは…レホトネン副司令官。お話しましょうか」
「あ、ああ…」
ふたりは、レホトネンの自室に入る。そこで向かい合った。
レホトネンは、相変わらず混乱している…というより、混乱を通り越し放心している様子だった。対して、エステルは落ち着いている。
「まず、現在の状況をおさらいしましょう。今、北部要塞は攻撃されています。おそらく、相手は巨大要塞の兵です」
「し、しかし、巨大要塞が攻めてくるなど…!」
「否定したい気持ちは分かります。しかし、状況的に他の可能性はありません」
これはもちろん、嘘だった。北部要塞を攻撃しているのは、エステルの指示を受けた聖王国兵なのだ。
「そして、敵の攻撃を止めるには出撃するしかありません」
「だ、だが、ヒーマン司令官の許可なく勝手に出撃するなど…!」
「司令官の命令を待っている時間はありません。今はあなたがこの要塞のトップなのです。レホトネン司令官代理」
「し、しかし、しかし…私には…」
「…ご決断できないようですね。――それでしたら、私に良い案があります」
エステルは、レホトネンに近付き…静かに囁いた。




