轟音
岩は、正確に北部要塞城壁の中腹部に命中した。轟音が北部要塞に響き渡る。
「な、なんだ!?」
副司令官の自室は、要塞の中核たる城館内にある。何か不測の事態が起きた場合、すぐに対処できるようにするためだ。そこで睡眠を取っていたレホトネン副司令官は、けたたましい音に飛び起きた。一瞬、寝ぼけたのかと思う――が、しばらくすると再び轟音が響く。
「し、司令官代理!」
扉の外で兵が叫ぶ。レホトネンは慌ててベッドから起き、扉を開けた。
「どうした!?何が起こっている!?」
「よ、要塞が攻撃を受けています!投石器による投石です。おそらく…大型投石器によるものです…!」
「なに…!」
そんな、まさか――何かの間違いだ。レホトネンは、まずそう思った。巨大要塞とは休戦の密約が交わされている。そして、その他にこの近くに敵の本拠地はない。しかし――またもや轟音が響く。やはり、城壁が大型投石器によって攻撃されているというのは事実なのだ。
「い、いったいどこの敵が攻撃して来ているのだ!?」
「く、暗くて分かりません…しかし、状況から察するに、そのう…巨大要塞から出撃してきた敵ではないでしょうか」
「馬鹿な…!」
そうは言ったものの、状況的にその可能性が最も高いのも事実だった。
「ふ、副司令官!
「レホトネン副司令官!」
「敵襲ですか!?」
そうこうしている内に、轟音を聞きつけた兵たちが集まってきた。司令官でいるヒーマンが不在な以上、今の最高指揮官はレホトネン副司令官なのだ。
「い、いったいどうしましょう?」
「副司令官、我々はどうすれば!?」
そう言って、兵たちはレホトネンの指示を仰ぐ。しかし――彼は、どのような指示を下せば良いのか分からなかった。北部要塞が攻められるなど、考えてもいなかったのだ。
「ま、待て、まずは様子見を…」
そう言っている間にも、轟音が響き渡る。すぐに城壁が崩れる訳ではないだろうが…悠長に構えているべき状況ではなかった。何か対処を行わなければ――。
レホトネンの額に脂汗が浮かぶ。




